映画『剣雲鳴門しぶき』

剣雲鳴門しぶき

 マキノ正博監督『剣雲鳴門しぶき』(「阿波の踊子」改題短縮版)(1941年、東宝、71分、白黒)を観た。
 2月プログラムによると、《1930年代に撮りかけて完成しなかった阿波踊りの映画にマキノが再び取り組んだ作品。海賊として処刑された兄の仇を討つ弟の復讐譚。戦時下で徳島の阿波踊りは中止されていたが、この映画のために特別に踊り手を集め、クライマックスの阿波踊りのシーンが撮影された。
 冒頭、阿波踊りが近づいたある日、徳島の船宿に三人の浪人が宿泊している。
 髭の浪人(黒川弥太郎)や尺八の浪人と怪しげな三人組で、宿の女中を清川虹子沢村貞子、宿の娘を高峰秀子が演じている。
 巷(ちまた)では噂が広がっていた。
 密貿易の悪事を隠すために家老が、無関係の商人の十郎兵衛を海賊だとして七年前に処刑した。
 七年もの間姿を隠していた十郎兵衛の弟(長谷川一夫)が必ず帰って来ると噂されていた。兄の仇を討つために。
 阿波踊りが近づいたある日、港に着いた船から一人の男(長谷川一夫)が下りて来て、その宿に泊まる。
 宿の娘がそれと気づいて男の身元を言うが、男は違うと相手にしない。
 男には豪商の娘の許嫁(入江たか子)がいた。その娘は仇の家老の側室に行かされかけている。
 家老の屋敷に、何者かによって、男が帰って来たことを知らせる張り紙が貼られる。
 宿の三人組の浪人者が目明したちに疑われて、取り調べで筆跡鑑定される。三人組の浪人は牢に入れられるが、家老側に寝返って十郎兵衛の弟が宿にいると密告する。
 宿で十郎兵衛の弟は密告されて捕まって、抵抗もせず素直に牢屋へ入れられて仕舞うのだった。引き換えに三人組の浪人は牢から出ると、宿替えをするといって、宿を立ち去って行く。
 その時に、街のあちこちの男たちに「明日は踊ろうぜ」と意味ありげな声をかけながら去って行くのだった。
 阿波踊りの当日は大勢の踊り手によって踊りが通りから通りへと進んで行く。
 だが、その踊りの群集のなかに内部協力者によって無事脱出した十郎兵衛の弟も紛れ込んでいた。
 仮面を被った踊りの群れは家老屋敷へと雪崩れ込んで行く。
 屋敷には十郎兵衛の弟の許嫁だった娘が家老から呼び寄せられていた。娘危うしという場面に、阿波踊りの群集が屋敷に雪崩れ込む。
 十郎兵衛の弟が兄の仇を討つラストのどんでん返しが痛快な時代劇。
 宿の娘・お光(みつ)(高峰秀子)が十郎兵衛の弟に憧れるシーンが秀逸で印象深い。