映画『ハナ子さん』

白梅

 快晴で青空が広がる。公園の白梅が咲いていた。
 雪の札幌に寄って来たというウェリントンからの男が梅を見て桜かと言う。桜ではなく梅ですよ。
 つぼみはbud。枝はBranchとか。
 蕪村の句に、「鳴滝の植木やがむめ咲きにけり」。
 映像文化ライブラリーにて「名作映画 マキノ雅弘監督特集」でマキノ正博監督『ハナ子さん』(1943年、東宝、71分、白黒)を観た。午前の部で半分の入り。
 クレジットタイトルは、演出・マキノ正博となっていた。
 「撃ちてし止まむ」という冒頭の文字が最初のシーン。
 一転して多くのダンサーによる群舞のダンスが繰り広げられる。白いドレスを着たダンサーの動きによる幾何学的な模様の変化してゆく様子が華やかだ。宝塚歌劇の世界!
 また一転して、今度はハナ子さん(轟夕起子)が書割のような舞台に登場する。
 ハナ子さんの自己紹介があった後、ハナ子さんによって家族が紹介される。紹介されると、家族のそれぞれが絵に描かれた回転扉から飛び出して来る。
 父、母、兄、兄嫁、その子供の男の子(ハナ子さんの甥)。
 買い物に自転車で行くハナ子さんは歌いながら行く。長い移動撮影で軽快に自転車に乗って行くシーンはのびやかな感じ。五郎さんの乗る馬術競技の馬の動きをモンタージュで。
 ハナ子さんの婚約者の五郎さん(灰田勝彦)とハナ子さんの会話にも歌いながらのシーンがある。
 トントントンカラリンと隣組、助けられたり助けたり・・・。と、歌を近所のお店の人がセリフがわりに歌ってゆく。町内の隣組が集まっての空襲に備えての消火訓練。
 ハナ子さんと婚約者の五郎さんが町内会の隣組で結婚式を挙げて、男の子が産まれると五郎さんが出征することになり、千人針を女学生が縫う場面がある。
 『ハナ子さん』はミュージカル・ホームドラマで、昭和18年の時代を反映した内容がうかがわれる。
 たとえば、町内での隣組同士での空襲に備えての消火訓練だけでなく、サラリーマン(五郎さん)のボーナスが現金ではなくて国債の証書で支給される。出征兵士への千人針など。
 しかし、ダンスや歌が楽しい。ほとんど戦時下のユートピアともいえるホームドラマ
 国債を買いましょう。節約しましょうとか、戦時色の濃いメッセージがあるのだが、明るい。
 主演のハナ子(轟夕起子)と五郎(灰田勝彦)の歌う姿の明るさがあっけらかんとしている。 
 ラストのススキが群生している野原へ行楽へ出かけ、ハナ子さんと五郎さんがススキに見え隠れしているのが印象的だった。