映画『浮草』

浮草

 「京マチ子特集」から、小津安二郎監督の映画『浮草』(1959年、大映、119分、カラー)を観に寄る。 
 プログラムの説明によると、

 戦前の『浮草物語』のリメイク。旅役者の駒十郎は、かつて恋仲だったお芳のいる町にやって来る。駒十郎を実の父とは知らないお芳の息子・清、お芳に嫉妬するすみ子(京マチ子)、清と駆け落ちする一座の娘・加代など、南紀和歌山を舞台に駒十郎をめぐる人間模様を描く。

 旅芝居の一座を率いる嵐駒十郎を中村鴈治郎、お芳を杉村春子、息子の清を川口浩、一座の娘・加代を若尾文子が演じている。散髪屋の娘を野添ひとみ。すみ子は駒十郎の若い情婦で役者でやって来た町でお芳に強く嫉妬し、加代に清を誘惑させてお芳と駒十郎を困らせようとする。
 それは、駒十郎への愛情からゆえのことだったのだろうが・・・。
 町の芝居小屋主(ぬし)役に笠智衆がひとコマ出演している。一座の男の役者三人のひとり吉之助を三井弘次、吉之助は口ではうまい事を言っていたのだが、客の入りが悪くなると、いち早く座長の金を持って逃げ、それが元で一座が解散に追い込まれるのだった。
 駒十郎一座の人間模様が複雑に入り組んで面白い味わいがあった。落語的な笑いのセンスがみられる。
 随所ににやりとする笑いがあり、登場人物の人情の機微が繊細に描かれている。
 反発と和解、あきらめと出発。ラストに、夜行列車は駅の待合室で仲直りした駒十郎とすみ子の二人を乗せて、再出発のために知人のいる桑名へと向かうのだった。
 浮草のような旅役者を中村鴈治郎京マチ子若尾文子、三井弘次が熱演。
 撮影は宮川一夫。雨のなかで中村鴈治郎京マチ子とが激しく争う場面が凄い。