早朝からクマゼミのシャアシャアシャアという鳴き声が聞こえて来る。樹木の幹の低い場所にいることが多いセミだ。
断続的に鳴くが、なぜか正午前にはピタリと鳴き止む。不思議だ。
「翻(ひるがえ)る蝉の諸羽(もろは)や比枝(ひえ)おろし」(蕪村)
半翅(はんし)目セミ科の昆虫。体長約五センチ、翅(はね)の端まで約六・五センチ。光沢のある黒色で、翅は透明。東京以南に普通にみられ、夏の朝、樹幹でシャーシャーと鳴く。うまぜみ。 『大辞泉』
緑陰読書というわけではないが、五月の新刊で丸谷才一著『文学のレッスン』(新潮社)が面白い。インタヴュアーとして湯川豊さんが聞き手です。
今月(7月)の「生誕百年記念 山中貞雄監督特集」で上映された映画は、昭和10年〜昭和14年にかけて公開されている。その時期の東京を描いた吉田健一の作品に『東京の昔』がありますが、それについて「長篇小説と都市小説」に、
丸谷 (中略)僕は東京を扱った小説で一番いいのは吉田健一『東京の昔』だと思うんですが、逆にいうとこれが一番いいと思うのは、東京を扱った都市小説がどうも物足りないということを示しているのかもしれません。いろんな階層の人間が出会って葛藤があっておもしろい、というのが少ない。
『東京の昔』は吉田健一を思わせる文学青年と、横浜へ出かけてアメリカやイギリスの自転車を買ってきて、東京で新品なみに直すという業者とが酒を飲む。あそこのところが僕はとても好きで、階級も職業もまるで違う二人が出会うのがおもしろい。それこそ両者とも作中人物として魅力があっていいんだけれども、残念なことに、ただ会って酒を飲むだけなんだ(笑)。 61ページ

- 作者: 丸谷才一,湯川豊
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/05/01
- メディア: 単行本
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