映画『春の劇』について

春の劇

 「ポルトガル映画祭2010」で、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の映画について考えさせられた。
 1908年12月11日ポルト生まれで、長篇デビュー作が1942年の『アニキ・ボボ』だが、その後、サラザール独裁政権下で長期間の沈黙を強いられ、長篇第二作の『春の劇』(1963年)では上映直後に投獄される。
1972年に長篇劇映画、第三作『過去と現在 昔の恋、今の恋』を作る。
 『アニキ・ボボ』→『春の劇』→『過去と現在 昔の恋、今の恋』
 『春の劇』について、「ポルトガル映画祭2010」のプログラムから引用すると、

16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは「上演の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。

 冒頭、広場で男が新聞を広げて人々に聞こえるように声に出して読んでいる光景。
 人類が宇宙に出るというニュース記事を読み上げている。
 映画の撮影隊の一行が撮影機材を山村に持ち込んで、村人の日常風景を撮影している。
 キリストの受難劇を村人がこれから始めるという準備期間から、撮影隊の撮影カメラは村人の日常風景を撮ってゆく。
 「映画」はドキュメンタリーのように進んでゆく。
 村人がマリアやキリストに仮装して役になりきって、村人の作り出す虚構のキリスト受難劇が野外で村人全員参加で淡々と演じられる。
 イエス・キリストが十字架に磔(はりつけ)にされるゴルゴタの丘の場面も村人によって演じられてゆく。村人がキリスト受難劇の中に溶け込むように一体化してゆく静かな熱狂、無我の境地、祈りを込めた村人による野外演劇が淡々とドキュメンタリー風に展開するのだった。
 ラストは、現代のニュース映画のフィルムの引用が繰り広げられる。水爆の実験、戦争の映像、事件が映し出される。人々に降りかかる災難がまるで現代の受難劇であるかのように。
 場面は、再び映画の冒頭に戻り、新聞を読み上げる男とそれを囲み聞き入る村人の姿を映し終わる。