夕方、公園の池へハスの花を見に寄る。花弁(はなびら)はもう閉じていた。
花弁が散ったハスには、花托(かたく)が見られる。
睡蓮やハスに、イトトンボが多くとまっている。水中から顔をのぞかせている蛙たちもいる。
みすず書房の「大人の本棚」の一冊、山田稔散文選『別れの手続き』(堀江敏幸解説)を読む。
「表札」と「一枚の質札」が短い文だが、面白かった。
前者は、富士正晴に木の表札板に山田稔と筆で書いてもらいに富士さんの家へ訪れる話である。
酔っ払った富士正晴が筆で書いた文字をめぐって、なんとも奇妙な話が展開する。
富士正晴の晩年の老いの虚実を描き、ユーモアもある。
後者は、じつは十代はじめころから回顧談が好きだった。また、まわりの人のむかし話を聞いたり、作家の回顧録のたぐいを読んだりするのが好きだった。
と、述べる山田稔の創作のスタイルを示唆する部分が興味深かった。
多田道太郎の「回顧の人 よむ会の山田稔」という文章は、つぎのように始まる。
「むかしのことを思い出すと、山田稔という人は回顧談の好きな人だった。二十歳すぎのころからしきりに回顧談をやっていた。二十歳にして――思えば妙なことだった」 最近これを読み返し、自分の追悼文を読むようなおかしな気がした。
この文章は「よむ会の山田稔」とあるように、「日本小説を読む会」の会報に書かれたものだが、最初、題が付いていなかった。それを編集人であった私が筆者の了解の下にこのような題にしたのである。われながら適確な自己認識をもっていたものだと感心する。 203ページ

- 作者: 山田稔,堀江敏幸[解説]
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2011/05/11
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