「落語全集」

 「落語全集」については、岩波少年文庫の50年『なつかしい本の記憶』(岩波少年文庫別冊)に、池内紀池内了の「耳と目で読む」という対談に述べた箇所がある。

 対談によると、池内了氏は、「落語全集」というのが家にあって、分厚い上下二巻本で昭和二、三年ぐらいの発行の全集だったという。この本で落語の話だけでなく、洒落(しゃれ)とか都々逸(どどいつ)とか、上から読んでも下から読んでも「タケヤブヤケタ」(回文)とか、電報で「カネオクレタノム」というのを「金をくれた飲む」みたいな言葉遊びが楽しかったですねと話されている。

 

 あれはいい勉強になりましたね。それも目で読んでいるのじゃなくて声で、つまり一種の視聴覚ですね。だから言葉というのは、ほんとに不思議で面白いものだと発見しましたね。活字よりも耳、具体的にはラジオとか紙芝居とか幻燈とか。戦前と同じ視聴覚文化が、子供の世界にもまだ生きていたという感じがしますね。(後略)  57〜58ページ