「喜劇映画の異端児 渋谷実監督特集」の一本、『バナナ』(1960年、松竹、90分、カラー)を観に寄る。カラー映画でフィルムの状態が驚くほど鮮明できれいだ。
出演は、岡田茉莉子、津川雅彦、尾上松緑、杉村春子、宮口精二、小沢栄太郎、小池朝雄、伊藤雄之助、仲谷昇、岸田今日子、三井弘次。
音楽は黛敏郎である。
1月プログラムから引用すると、
獅子文六の同名小説の映画化。裕福な華僑を父に持つ竜馬は、自動車に夢中の青年。彼の恋人・サキ子は、学生をやめてシャンソン歌手を目指す。若い二人が巻き起こす騒動を軽快なタッチで描いた喜劇。
竜馬を津川雅彦、サキ子を岡田茉莉子、竜馬の父を尾上松緑、竜馬の母を杉村春子、サキ子の父を宮口精二が、それぞれ演じている。三井弘次や岸田今日子や伊藤雄之助ら他の俳優の演技も見逃せない。
尾上松緑は成功した裕福な華僑で、食道楽である。
大陸と台湾との華僑の世界での対立など政治的なことより、食べることが好きで料理を自分で作って食べる。その料理の美味しそうなこと。
息子の竜馬は自動車を買うお金が欲しいために、サキ子と組んで、バナナを輸入する事業の権利を神戸のおじ(小沢栄太郎)に頼んで入手しバナナ輸入の仕事を始めるのだった。
だが、その利権に目をつけたある一味に騙されて、ある日一味とともに逮捕されてしまう。
父親の尾上松緑が、あれほどバナナはいけない、と息子に言って聞かせていたのに、とんだ騒動に巻き込まれ、その後始末を警視庁へ出かけて身元を引き受けなければならないのだった。
サキ子役の岡田茉莉子のファッションセンスとそのコメディエンヌぶりがとてもいい。必見ものだ。
「青ブクの唄」を岡田茉莉子が映画の中で歌う。
青ブクとは、まだ青いバナナのことで、バナナは青いうちに収穫し輸入するので、そう呼ぶ。
伊藤雄之助は喫茶店のマスターで、サキ子のシャンソン歌手デビューを陰で支援する。
サキ子の父の宮口精二は昔バナナで儲けた時代があって、サキ子らの持つバナナを輸入する権利書を欲しがっている。チャキチャキの江戸っ子といった人物。
小池朝雄が悪役一味の一人で、竜馬の父と竜馬を騙す。岸田今日子は踊り子。
仲谷昇はシャンソン歌手で竜馬の母親(杉村春子)を誘惑しようとするのだったが・・・。
前日上映された渋谷実の『悪女の季節』(1958年、松竹、110分、カラー)にも岡田茉莉子と伊藤雄之助の二人が出演していた。この『バナナ』にも二人が出演しているのだった。