渋谷実監督の映画『勲章』

勲章

 今月(1月)は、松竹キネマ90周年記念で「喜劇映画の異端児 渋谷実監督特集」が映像文化ライブラリーで開催されている。

 11日、渋谷実監督『勲章』(1954年、俳優座、120分、白黒)を観た。
 出演は小沢栄、佐田啓二香川京子杉村春子東野英治郎岡田英次小沢昭一
 プログラムに、
 当時“逆コース”と呼ばれた再軍備の動きを風刺的に描いた作品。元陸軍中将の岡田雄作は、再軍備運動のリーダーとなるが、かつての部下に利用されるばかりで、娘や息子も彼に反抗し、一家に悲劇が訪れる。 
 元陸軍中将の岡田雄作(小沢栄)は、かつての部下・寺位(東野英治郎)から、再軍備の運動のリーダーになるよう要請される。
 岡田は再軍備になると必要とされる将校に再び返り咲きたいと思い、その話に乗った。
 家族に対して暴君的な父親で、娘(香川京子)や息子(佐田啓二)に理不尽なことを言って煙たがられている。
 再軍備の運動資金に田舎にある山林を抵当に、戦時中シンガポールで旧知の今は金貸しの女(杉村春子)から三百万円を借りて運動資金にする。
 ますます家庭でも暴君振りを発揮し、かつて部下だった寺位と娘を無理やりに結婚させようとした。
 娘(香川京子)は恋人(岡田英次)と共に家出をしてしまう。
 息子(佐田啓二)は学生だがアルバイトで寄席で落語をしていた。
 (脇役に学生仲間役に小沢昭一が出演している。)
 寄席に出ていた踊り子と親しくなり父親の大事にしていた勲章を持ち出すと女に与えてしまう。
 ある日、部下だった寺位らが密輸事件で逮捕され自分もマスコミに報道され、再軍備運動もすべて駄目になってしまった。
 旧知の今は金貸しの女(杉村春子)からも冷たくあしらわれてしまう。
 息子に勲章を持ち出され、威信の象徴だった勲章を犬や部屋の飾りにされていることに頭にきて自暴自棄になり、岡田(小沢栄)は息子(佐田啓二)に遺産の山林を相続させると嘘をつき、息子を連れて故郷の山林を訪れるのだった。
 そこは戦時中にある女に産ませた隠し子の娘の疎開先で、すくすくと成長していた。
 生まれて初めて娘に会うのだったが、今さらと言って拒絶される始末だった。
 岡田は勲章をないがしろにした息子の行為に対してかっとなって猟銃の引き金を引いた。
 ラストはその後、一人になった岡田は冬の山林に入る。
 そして、スクリーンに遠く銃声が一発鳴り響くのだった。
 あとには冬の荒涼たる風景が広がるばかりである。
 映画『勲章』は、当時の時代背景にあった再軍備運動の顛末を風刺的に描いている。
 佐田啓二の息子はアルバイトに寄席で落語を演じているが、笑いを寄席の観客から得ている。
 勲章とか権威とかいったものに価値を見いだす訳ではなく、笑いに価値を置くという落語家のアルバイトをやっている。
 勲章に価値を見いだす強権的な父親への痛烈な風刺を読み取れる描写だ。
 小沢栄の演技がやや戯画的ではあるが、悲劇的な男を演じ印象的だった。