27日、新藤兼人の映画『狼』(1955年、近代映画協会、128分、白黒)を観る。
「新藤兼人 百年の軌跡」の上映作品の一本。
出演は、乙羽信子、高杉早苗、殿山泰司、浜村純、菅井一郎。
4月プログラムに、
戦争で夫を亡くした主婦、元銀行員、老シナリオライターなど、生活に困った人々が保険の勧誘員として働くが、重いノルマにますます窮地に追い込まれ、やむなく郵便局の車を襲って金を奪う。追いつめられた人間の心理を張りつめたタッチで描く。
保険会社の勧誘員の募集がある。
多くの人が応募し全員採用され、働き始めるが多くは脱落し辞めて行った。
依然、ノルマを達成できず、しかしそれでも生活苦のため今さら辞めるわけにもいかず、窮地に追いこまれた残った五人の男女が、さんざん悩んだあげく、郵便車に積まれた現金を襲って奪う計画を立てるのだった。
銃と刀で武装した男二人(浜村純、殿山泰司)、道路で見張る女二人(乙羽信子、高杉早苗)、犯行現場の下の海岸で待機する男(菅井一郎)で計画を実行し、三十五万円ほどを奪い現金を分けて、五人は別れたのだったが・・・。
新藤兼人著『三文役者の死』(同時代ライブラリー)に、『狼』について述べられている。
『狼』は、乙羽信子、殿山泰司、高杉早苗、浜村純、菅井一郎が主役。郵便車を襲った保険外交員の事件にヒントを得てシナリオ化したもので、五人が最後につかんだのは保険外交員の仕事だったが、成績をあげることが出来なくて、絶望的に郵便車を襲撃する。いずれも生活に敗れた弱者。
生活能力のない弱者というのが、タイちゃんにうってつけである。外ではいつも人のあとからついて行く。家へ帰っては女房に頭があがらない。子どもたちからも馬鹿にされている。会社が潰れてながい失業ののち保険外交員となる。タイちゃんは実際にその人ではないかと思えるほどぴったりであった。
高杉早苗は役作りに腐心し、殿山さんはどうしてあんなにリアルなのかしら、と嘆いたものだ。実生活の住んでいる場所がちがうのだから仕方がない。
だが、ここでもタイちゃんは、ラストで失速した。自然のままに終わって、クライマックスにのめりこんでいけない。演技者としての盛りあがりがないのだ。わたしは演出者としての能力のなさに臍を噛んだ。 102〜103ページ