映画『ボンボン』

映画『ボンボン』

 3月「中南米映画特集」で上映された作品の3本目について。

 カルロス・ソリン監督の映画『ボンボン』(2004年、アルゼンチン、97分、カラー)を観た。観客は15人ほど。
 出演はファン・ヴィジェガス、ワルテル・ドナード、グレゴリオ、ミコル・エステヴェス。
 原題はEl Perro。
 「中南米映画特集」のパンフレットより引用。
 職場を解雇されたファンは、肩身の狭い日々を送っていた。人助けをした彼は、そのお礼として大きな犬をもらうことになるが・・・。アルゼンチンの広大な自然を背景に、中年男性がある犬と出会ったことで少しずつ幸せをつかんでいく物語。 


 52歳のファンはガソリンスタンドで整備工をやっていたが閉鎖のためクビになった。
 失業して職探しをするが、なかなか見つからない。
 娘夫婦の家に居候している。妻とは音信不通状態である。
 手が器用なので、パタゴニアで採れる材料でナイフの柄を彫ってナイフを自作して行商しているが、客が高いと言って売れない。そんな毎日を過ごしていた。

 ある日、車が故障して困っていた娘の車を通りかかった道で見つけた。
 娘は父親が所有していた車を売りに出そうとしていたのだが、故障ではどうにもならない。
 娘の家までファンは自分の車に、その車を牽引(けんいん)して送り届けた。
 娘は母親と住んでいた。フランスから移住した裕福な移住者の農家で、亡くなった父親がやり手でさまざまな分野に手を出していた。
 最後に犬の繁殖に取り組んでいた。
 そのために手に入れた犬がいた。ボンボンと呼ぶ大きな白い猟犬で、母と娘の二人はその犬の処分に困っていた。来訪したファンにお茶をすすめ、お礼に飼ってくれるように懇願した。
 人のいいファンはボンボンという白い犬を連れて帰ることにした。
 飼い主がフランスからの移民なので犬小屋にフランス語でLe chien(犬)と書いていた。
 それを読んだファンは犬の名前をスペイン語風にレチェンと呼ぶのだった。
 娘夫婦の家へ連れて帰ったファンだったが、娘から犬を飼うことに大反対されて、居場所がなくなり、白い大きな犬とともに追い出された。

 追い出されて車で移動していたファンは銀行で換金に立ち寄った。
 猟犬に詳しい支店長が犬の毛並みが優れていると気づいた。
 ファンは調教をしたらお金に成るという勧めで犬の調教師に会いに行った。
 調教師一家に居候して、調教師と二人でドッグショーに出るための訓練をはじめた。
 入賞した犬には、種付け用の犬として高額の種付けビジネスがあるのだった。
 そして、ドッグショーに参加し入賞しファンは次第に自信を取り戻してゆくのだったが・・・。

 アルゼンチンのパタゴニア、広大なはるか彼方まで山ひとつ見えない平原にまっすぐに伸びた道路。
 ドッグショーを通じて見えてくる北米、中南米の犬をめぐるビジネス世界。
 アルゼンチンに移住してきたフランス人の農業移民、仕事を求めて首都のブエノスアイレスへ出稼ぎに行こうとしている若い夫婦。
 アルゼンチンのパタゴニアの様々な人々の姿がかいま見れる。 
 ファンがフランス人の農業移民からもらった犬のレチェンが、次から次と人との出会いを作ってくれた。
 犬好きの旅回りの歌姫との出会いも・・・。
 
 白い大きな犬一匹に導かれるように物語は展開していく。
 物語の展開とともに失業中だったファンの顔の表情もしだいしだいに良くなっていく。
 原題はEl Perroで、スペイン語で犬のことである。男性単数冠詞のElに名詞Perro。
 犬のレチェンと52歳のファンを象徴するかのようなタイトルである。