田中重雄監督の映画『北極光』

映画「北極光」

 《昨年の5月に亡くなられた新藤兼人監督は、200本を超える脚本を書き、シナリオ作家としても日本映画界の中で大きな存在でした。今月は、シナリオ作家としての新藤兼人監督に焦点をあわせた特集を開催します。》
 「特集・新藤兼人のシナリオ」と題して映像文化ライブラリーで上映されている。
 1日、田中重雄監督の映画『北極光』(1941年、新興キネマ、108分、白黒)を観た。
 出演は小柴幹治、美鳩まり、真山くみ子、逢初夢子。潤色・美術に新藤兼人
 撮影は青島順一郎、岡崎宏三。

 6月のプログラム解説文より引用。 

時代小説作家として知られる村上元三の原作・脚本を新藤兼人が潤色。大正から昭和にかけて行われた鉄道敷設を背景にしたドラマで、舞台となる樺太でロケーションを行った大作。父が没した樺太の地で鉄道敷設に参加する若者を主人公に恋や冒険を描く。(収集協力/東京国立近代美術館フィルムセンター

 昭和16年の樺太にロケーションを行っているので、当時の樺太の自然や街の貴重な映像が見られる。
 人々は街で数頭の樺太犬に橇(そり)をひかせて乗って移動している。
 樺太犬の橇が交通の手段として大活躍しているのだ。
 森林の木を伐採する映像、鉄道の線路を枕木に載せる作業なども見られる。
 樺太の山並みも撮られている。険しい山ではなくなだらかな山並みである。
 北海道の稚内から樺太へ連絡船で渡る船内の場面がある。
 
 おおよその物語は、冒頭、明治時代の日露戦争で、ロシアとの領地をめぐる戦闘の場面から始まる。
 日露戦争後の樺太に鉄道を敷設する計画が作られ、鉄道技師の松岡伝太郎(原聖四郎)は妻子を東京に残して長年単身赴任していた。
 同僚と二人で不良な鋼材を納入して儲けている業者を告発しようとしたが、二人は一味に逆に待ち伏せされ銃で撃たれた。
 生き残った技師高木(植村謙二郎)は、東京を訪れ殉職した伝太郎の鉄道敷設の夢を家族に伝えた。

 月日が経って、父の意志を継いだ息子の徹(小柴幹治)は北の樺太の地に行き、彼もまた敷設工事に従事するのだった。そして父を殺した犯人の男を見つけた・・・。
 狂言まわし的な凸凹コンビの弁慶(山口勇)と牛若(上田寛)が軽妙な笑いを誘うコンビで、徹(小柴幹治)の仇の犯人の男を追跡するのを手助けするのだが、弁慶は殺されてしまう。
 仇の男を追いつめて、泥水の中で格闘するアクションシーンが凄い。
 必見!
 浦辺粂子、植村謙二郎といった俳優が出演していた。
 映画通に聞くと凸凹コンビの弁慶(山口勇)と牛若(上田寛)の二人は戦前からの名脇役だという。
 この二人の出演した映画をもっと観たい気がした。

 ラストの鉄道が完成した初運行の落成式の日、大勢の人々が駅の線路に一目見ようと大集合し、喜びで人々の大歓声がいつまでも上がるのだった。
 樺太に住んでいるギリヤークの踊りの場面もある。
 田中重雄監督はもっと注目されてもよいのではなかろうか。