今月は、「家族の肖像 ホームドラマの軌跡」と題した作品を映像文化ライブラリーで特集している。その中の一本。
五所平之助監督の映画『人生のお荷物』(1935年、松竹キネマ、67分、白黒)を鑑賞する。
昭和10年公開の松竹蒲田制作の映画である。上映は35ミリフィルムではなく、16ミリフィルムによる上映だった。セリフや音楽などの状態はよかった。音楽監督が堀内敬三。
出演は斎藤達雄、吉川満子、田中絹代、小林十九二、坪内美子、葉山正雄、飯田蝶子、三宅邦子。
9月プログラムによると、
一男三女を持つ初老のサラリーマンが主人公。三人の娘を嫁がせてほっとしたのも束の間、晩年に生まれた小学生の長男を一人前にするまで、父親は頑張らなければならない。サラリーマンの哀感をしみじみと描いた小市民映画の代表作。
斎藤達雄が初老のサラリーマンを、その妻が吉川満子で、一男三女の子持ち一家の物語である。
医師に嫁いだ長女(坪内美子)は夫に不満で戻って来ている。
次女(田中絹代)は画家(小林十九二)に嫁いでいるが、お金が足りなくなるとお金を貰いにやって来る。
ちゃっかりした洋服を着たモダンガール。素敵です。長女は着物を着て頭も日本髪のスタイル。
三女(水島光代)が軍人(佐分利信)と結婚式を挙げて新婚旅行に出かけて行った。
式が終わって妻と家に帰ってほっとした。
これで親の務めが終わってやれやれと思うまもなく、まだ九歳の小学生の息子(葉山正雄)が残っている。
すやすやと眠っているが、まだ十年は頑張らなくてはと思うと、憂鬱になり息子に対して疎(うと)ましくなるのだった。
一時間ちょっとの長さの作品だが、後半、息子のことをめぐって夫婦喧嘩になり妻は小学生の息子を連れて家出をしたあたりからの場面をつなげていく演出の妙が愉しめる。
撮影技術がしっかりしている。
主人公の斎藤達雄がカリカリした初老の父親役を、自分を持て余したかのようなコミカルなしぐさで演じて、笑える場面があり面白かった。
妻(吉川満子)が息子を連れて次女の所へ家出した後、カフェへ出かけた斉藤達雄に給仕にやってきた女給の一人が三宅邦子だった。斉藤達雄の帽子をかぶる女給がそれだ。
三女の結婚の仲人の妻役に、飯田蝶子が出演している。
助監督の一人と編集に渋谷実の名前があった。
渋谷実の監督デビュー作、映画『奥様に知らすべからず』(1937年、松竹、61分、白黒)の二年前に、渋谷実は五所平之助監督の助監督と編集を担当していたのですね。
左が斎藤達雄。右が吉川満子。