青空の本

 『中央公論』2013年10月号で、武田徹氏の「時評2013」の[「青空文庫」と成仏できない本]を読む。
 現在公開作品は一万点を超えるまでに成長した青空文庫の今後を、生みの親である富田倫生(とみたみちお)さんが亡くなられる直前まで、TPP絡みで進められている著作権保護期間延長の議論に対して心配し恐れていたという。
 筆者の武田氏は1999年、横浜の自宅で富田倫生(とみたみちお)さんから電子書籍の話を聞いていた時の話を書いている。なぜ富田さんがネット上に電子図書館をつくろうとしたかという本に込めようとした思いにふれている。
 《出版に関係する人の人件費を捻出できるほどの商業的成功が見込めない本であっても読み手を求めて公開されるべきだし、書店や図書館を訪ねられない人にも本にアクセスできる場があるべき。そんな考えで青空文庫は運営されてきた。》
 「未来の本」のイメージを記した富田さんの『本の未来』からの一節が引用されている。 

 たとえば私が胸に描くのは、青空の本だ。
 高く澄んだ空に虹色の熱気球で舞い上がった魂が、雲のチョークで大きく書き記す。
「私はここにいます」
 控えめにそうささやく声が耳に届いたら、その場でただ見上げればよい。
 本はいつも空にいて、誰かが読み始めるのを待っている。

 参照:富田倫生著「本の未来」http://www.aozora.gr.jp/cards/000055/files/56499_51225.html