映画『東京物語』を味わう

 9月は、「家族の肖像 ホームドラマの軌跡」と題して家族を描いた映画の特集だった。
 その中の一本。
 小津安二郎監督の映画『東京物語』(1953年、松竹、136分、白黒)を鑑賞する。
 撮影は厚田雄春である。
 出演は、笠智衆東山千栄子原節子山村聡三宅邦子杉村春子中村伸郎香川京子大坂志郎東野英治郎、十朱久雄。

 9月プログラムより引用。
 家族を描いてきた小津安二郎監督の集大成ともいえる作品。尾道から上京して、一家をなした子どもたちの家を訪ねた老夫婦は、疎遠になった親子関係に失望する。人生のわびしさはかなさ、家族の絆のもろさをしみじみと描く。
 家族を描いた映画には、必ずといっていいほど、飲み食いする食事の場面がある。
 先日、「ヤスミン・アフマド監督特集」で、映画『タレンタイム』(2009年、マレーシア、120分、カラー)で、主人公のマレー系の少女ムルーの家族が食事をする場面があった。
 食事の場面で、登場人物の性格や個性が上手く演出されていた。父親が食卓で下品なことを言って、娘らから嫌がられている。だが、お茶目なところのある愛すべき人物だという人物像を上手く演出していた。
 今回は、『東京物語』で食事の場面を書いてみます。
 尾道から上京した老夫婦(笠智衆東山千栄子)が、長男夫婦(山村聡三宅邦子)の家に滞在し、長女夫婦(杉村春子中村伸郎)、戦死した次男の嫁(原節子)と再会する。
 杉村春子中村伸郎が、ちゃぶ台に並べられた皿の豆を箸でつまんでご飯を食べるシーン。
 上京した両親の東京見物などの世話をどうするか食事をしながらの夫婦二人がする会話の場面である。
 中村伸郎が皿の豆を一人せっせと休む間もなく箸でつまんで口に運んでいるところ、杉村春子が自分も食べたいのでその熱心な箸の動きを非難がましく言って、自分もせっせと箸で豆をつまんで口に運ぶ様子が可笑しかった。茶碗を持って箸でご飯を口に運ぶしぐさのところである。
 尾道に駆けつけて葬式の後の法事の食事の場面でも、杉村春子のご飯の食べっぷりも見ものだった。

 飲み食いする場面と言えば、笠智衆尾道での旧知の友人で、今は東京に住んでいる東野英治郎と十朱久雄を訪ねて酒を三人で酔いつぶれるまで飲み帰って来たのを、娘の杉村春子から昔の呑み助だっころのエピソードを持ち出されて嫌味を言われる。
こういった食べ物、食事を通して心の機微を巧く演出している。