「ホノルルまで」を読む3

 阿川弘之の「ホノルルまで」を読む。「出発まで」「ホノルルまで」につづいて、「ハワイ素描」の中に、「ハワイの標準語」として半分冗談として、つぎのようなエピソードがある。


 《税関の手続がすんで、船を下りた私が、最初に旅装を解いたのは、日本人町の小林ホテルという宿であった。(中略)
 ところが、部屋で荷物の整理をしていると、ホテルの食堂の方から、何やら、私の少し緊張した気持ちを、げんなりさせるような声高な話し声が聞えてきた。
「何々じゃけんのう」
「ええっと何々せにゃあ、いけんどう」
 と、丸出しの広島弁なのである。私は、横浜から八日間の船旅をして、ホノルルではなく、郷里の広島へ着いたのではないかと、錯覚に捉われそうになった。
 もっとも、食堂へ出て聞いてみると、それは、私たちの承知している広島言葉とは、少しちがっていた。何となく古風で、明治の匂いのする広島言葉で、そしてその中に、無数のピジョン・イングリッシュが混入している。
 たとえば、
「うちのかしらボーイ(長男)が、毎年ビジネスでジャパンへ戻りよりますけん」
 とか、
「ミーがテーケア(take care)してあげるけん、ネバウォリー(never worry)よ」
 といった具合である。
 それにしても、ハワイの標準語は広島弁だというのは、半分冗談と見ても、半分はほんとうなのであるらしい。  24〜25ページ 》