阿川弘之著『贋車掌の記』のこと

 余談になりますが、阿川弘之著『贋車掌の記』(六興出版)に、「F104搭乗」と「にせ司令の記」という文が収録されている。
 「F104搭乗」は、三島由紀夫自衛隊の戦闘機F104に搭乗し、大変興奮したことを聞いてもらいたくて阿川弘之のところへ何度も電話をかけて来た。阿川さんもそれから二年たって同じ戦闘機F104に体験搭乗をさせてもらったことを書いている。
 三島由紀夫からの電話のエピソードが興味深い。案外に寂しがりやだった三島の素顔を思わせられる。

 「にせ司令の記」は、昭和五十七年の書き下ろしで、航空自衛隊新田原基地を訪れて、新鋭戦闘機F15を見学の上、一日司令になれという話が持ちかけられて、埼玉県入間基地から空路宮崎県新田原基地へ移動し、F15見学、体験搭乗、部隊泊。翌日、一日司令になって、隊員に訓示をするスケジュールをこなして輸送機C1で入間に帰着するまでを書く。
 近代戦を経済効率の面からアメリカの行く末を見つめている。
 『贋車掌の記』も文庫で復刊されることを期待します。

 付け加えると、阿川弘之の中公文庫の『お早く御乗車ねがいます』の解説も関川夏央氏である。