加能作次郎とつげ義春

ヤブツバキ

 20日は、二十四節気のひとつ大寒である。
 漱石の「草枕」は、「山路 ( やまみち ) を登りながら、こう考えた。」と始まる。
 
 山道を登りながらヤブツバキの花を眺めた。
 日当たりのよい道に沿って生えている。多くのつぼみが、枝のあちこちにまだ咲くのを控えている。
 ヤブツバキの花弁(はなびら)の内側にこぼれ落ちた黄金色の花粉が見えた。

 野生のツバキ。海岸や山地に自生し、春、赤い五弁花が咲く。本州以南に分布。これをもとに園芸品種の多くが作られた。やまつばき。  『大辞泉

 「日本文学100年の名作 第2巻 1924―1933 幸福の持参者」を読む。
 15人の作品が掲載されている。編者は池内紀川本三郎松田哲夫
 加能作次郎の「幸福の持参者」が、巻末の「読みどころ」で、川本三郎さんが書いているように、庶民のささやかな暮らしを描いた愛すべき小品であった。
 たしかに、つげ義春の漫画で「チーコ」という若い夫婦が文鳥を飼いそれを死なせる話に似ている。
 加能作次郎の「幸福の持参者」は、「ぎいすちょン、ぎいすちょン」と鳴く蟋蟀(こおろぎ)であるという違いはあるけれど、物語の味わいは似ていると思わされた。