小津安二郎監督の映画『東京の宿』

 「小津安二郎監督特集」から一本。
 映画『東京の宿』(1935年、松竹蒲田、80分、白黒、無声サウンド版)
 出演、坂本武、突貫小僧、岡田嘉子飯田蝶子。音楽・堀内敬三。 
 
 坂本武扮する喜八を主人公とする‘喜八もの’の一本。下町の工場地帯、失業中の喜八は二人の子どもを連れて職を探す。同じような境遇の母子に出会い、その世話をする喜八だったが、ついに母子の窮状を救うため、盗みを働いてしまう・・・。(特集パンフレットより) 
職探しに喜八が子どもを連れて工場地帯の道をひたすらとさまよう。そんなある日、安宿で自分と似た境遇の娘の子を連れた、おたか(岡田嘉子)と出会う。

 喜八は懐具合が寂しくなって野宿をしようと思っていたのだが、雨宿り先の飯屋の店先で、偶然におつね(飯田蝶子)というなじみに出くわした。
 飯屋をしているおつねさんの口利きで職を得た喜八だったが、母子の二人連れは挨拶もなく消え去った。
 それから、ある日、喜八は飲み屋で酌婦になっていた、おたかに再会した。
 酌婦になったことを責める喜八、娘の子が疫痢になって入院費のために飲み屋で働くことにしたと言う。
 ラストは切ない話です。
 岡田嘉子の子連れ親子が原っぱで寂しげに微笑む姿が印象的。美しいシーンです。突貫小僧が父からお金をもらって帽子を買ってかぶっている。その姿がつげ義春の登場人物の男の子を連想させます。

 岡田嘉子について、面白い対談が収録された本が出ている。
 小谷野敦・細江光編『谷崎潤一郎対談集[藝能編]』で、谷崎潤一郎岡田嘉子との「一問一答録」と題した対談です。
 1926年9月「映画時代」に掲載。
 註によると、文藝春秋社が1926年7月から1931年12月で廃刊された映画雑誌という。
 他に、岡田時彦、澤蘭子、英百合子らが出席した「谷崎潤一郎キネマ・スタア 映画座談会」も収録されている。1928年(昭和3年)3月「週刊朝日」春季特別号。 

谷崎潤一郎対談集 - 藝能編

谷崎潤一郎対談集 - 藝能編