「未来を捨てる」

 『わたしのこだわり――仕事・モノ・コト・人生の流儀』という本は三十人のエッセイをまとめた本である。
 川本三郎「禁止事項を作る」の他に、池内紀「I・O体操」、原武史「団地めぐり」、内山節「未来を捨てる」などを読む。

 内山節「未来を捨てる」に、

 《今日はこの本を読むのが自分の課題だと思ったらその本を読めばいい。二十代の頃の私は毎日釣り歩いていることもあった。何となく釣りをとおして何かをみつけられそうな気がして、今日は釣りをしているのがいいと感じると私はそうしていた。三十代になった頃には三ヵ月余り森を歩いていたこともある。森から何かをみつけられそうな気がして、今日の課題をこなしているうちに日々が過ぎていった。
 幸いだったのは、こんな私の様子を妻は少しも無責任な行為だとは思っていなかったことである。妻にとっても未来は今日という連続でしかなかったらしい。フランスの社会のなかに何かをみつけだせそうな気がして、二人で四ヵ月ほどフランスを旅していたこともある。このときも、帰ってからのことは一度も話題にならなかった。残念なことに昨年、妻はその生涯を閉じてしまったのだけれど。
 私たちは未来を生きることはできない。なぜなら未来は現在になったときに私たちとともにあるのであって、未来のままで経験することは決してできないからである。  173〜174ページ》

 (妻と)二人で四ヵ月ほどフランスを旅していたこともある、とあった。

 内山節著『山里紀行』に、フランスの南部のスペインとの国境を接しているピレネー山脈の山村に滞在した話が書かれていて、川で釣りをする筆者の話が印象に残っているのだが、お二人でのフランス滞在だったのだと知る。
 この本で、フランスのロレーヌ地方のロングウィの町を訪れた筆者が購入した地図を見て釣りをする川を探す話があるのだが、川という自然に対するヨーロッパの人々の考えと日本の人々の考えている川という自然に対する考えが違うという感触が私には貴重に思えた。

わたしのこだわり――仕事・モノ・コト・人生の流儀

わたしのこだわり――仕事・モノ・コト・人生の流儀

山里紀行 (山里の釣りから)

山里紀行 (山里の釣りから)