コサギと100年の文学宇宙

 干潮の水辺に一羽の白い鷺(さぎ)がいた。
 近づいても逃げる様子はなく、数メートルの距離まで近寄った。
 鳥は水中のえさ探しに夢中でゆっくりと場所を移動している。
 頭のうしろからの冠羽が垂れている。コサギのようだ。


 サギ科の鳥。全長六〇センチ。全身白色で、くちばしと脚が黒く、指は黄色い。日本では留鳥で、水田・河川・沼などにすむ。  『大辞泉

 今月の『波』6月号で、新潮文庫『日本文学100年の名作』完結記念座談会を読む。
 新潮文庫が1914年に創刊されて、2013年までの100年から145編を収録した全10巻のアンソロジー池内紀川本三郎松田哲夫の各氏が編んだ。

 一部引用すると、
 川本 けっこう異色作家が入っているんですよね。あと、私小説に点が厳しかったですね(笑)。
 松田 私小説系は、加能作次郎「幸福の持参者」(2巻)や小山清「落穂拾い」(4巻)などを収録しましたね。
 川本 そう! 私小説でもほのぼの系はいいんですよね。尾崎一雄「玄関風呂」(3巻)とか。大事件が起きるわけでもなく、日常の小さなことを描いているんだけど、どこか浮世離れしていて・・・・。ああいうのが好きです。  11ページ

 そういえば、加能作次郎の「幸福の持参者」の「読みどころ」は川本三郎さんでした。たしかに、つげ義春の漫画に似た味わいがありますね。