秋風や留守の用意と旅支度


 彼岸花が満開である。

ヒガンバナ科多年草。土手や田の畦に生える。秋の彼岸のころ、高さ約三〇センチの花茎を伸ばし、長い雄しべ・雌しべをもつ赤い六弁花を数個輪状につける。花の後、線形の葉が出て越冬する。有毒植物であるが、鱗茎(りんけい)を外用薬とする。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)。  『大辞泉


 「四方より馳せくる畦の曼珠沙華
 「あち向いてどの子も帰る曼珠沙華
 「稲雀たたせたたせて旅急ぐ
 「青蜜柑買ひ得し駅を発車かな


 昭和十五年(1940年)の中村汀女の俳句です。
 「大和路 二句」という前書きの二句があって、その一連の句の後のほうにある四句を選んでみました。
 後先になりますが、ずっと前の方に、「夏休みとなり子供等と大阪に赴く」の前書きで「秋風や留守の用意と旅支度」という句、また「八月 主人大阪へ赴任 二句」という前書きで詠んだ句が二句あります。 
 選んだ四句は、大阪や大和路を旅した時の俳句でしょうか。
 「稲雀たたせたたせて旅急ぐ」の句は、一面に稲が実った田圃の畦道(あぜみち)を汽車に乗り遅れてはならぬと駅へと急いでいる。
 稲田から群がった雀が驚いて飛び出すように舞い上がっているよ。