佐藤忠男著『喜劇映画論』3

 佐藤忠男著『喜劇映画論』を読む。
 「愛嬌について」「ふたたび、愛嬌について」で、日本の喜劇俳優をめぐり、その芸について佐藤忠男さんは、記憶を頼りに彼らの芸を書きとめている。
 これが面白い。
 まず、小津安二郎無声映画時代の斉藤達雄、「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」(1932)での百面相のおかしさ。
 小津安二郎の「淑女と髯」(1931)での岡田時彦
 《岡田時彦といえば当時現代劇では最高の美男スターだったのだが、それに羽織袴にすごい髯面といういでたちをさせ、応援のゼスチャーに滑稽な工夫を盛り込んで大いに笑わせる。》*1
 小津の「東京の合唱(コーラス)」(1931)での岡田時彦や横尾泥海男が斉藤達雄の体操教師をからかうアクションだけのギャグをくり出すそのリズムの愉快な幸福感。

 トーキーになってアクションだけのギャグは衰え、パントマイムも芸能の特殊な一部門として残っただけだったが、と佐藤さんは書くのだが、イッセー尾形を厳しく抑制されたギャグと言ってもいいユーモアの豊かな演技であると述べる。
 それから、連想が飛躍して周防正行監督の喜劇「Shall we ダンス?」に脇役で出演の竹中直人が滑稽なほどに切なく笑ってしまう、とも。

喜劇映画論 チャップリンから北野武まで

喜劇映画論 チャップリンから北野武まで

*1:「淑女と髯」の岡田時彦に、川崎弘子、伊達里子が共演している。