秋刀魚焼く死ぬのがこはい日なりけり

 20日が二十四節気のひとつ春分で、日が長くなった。
 ツバキやタンポポの花が咲く季節になった。ぞろぞろと散歩する。

 「暖かや市電の影もさまたげず
 「日脚伸ぶ窓の眺めの藪の穂に
 「たんぽぽの花の低さよ蜂を呼び

 「渋谷賑ふ」の前書き。
 中村汀女の俳句で、昭和二十六年(1951年)句集「都鳥」から引いた。


 小川軽舟の『俳句と暮らす』によると汀女は台所俳句の人として語られている。
 戦後社会性俳句が勃興し、俳句も社会の問題を扱うべきだという気運が高まった。
 女性の日常を詠う台所俳句は肩身が狭かったそうだ。
 しかし、男性のサラリーマンで台所俳句を作った草間時彦の句をめぐる話には共感した。
 以下の台所俳句を引いている。

 「オムレツが上手に焼けて落葉かな
 「老の春なにか食べたくうろうろす
 「秋刀魚焼く死ぬのがこはい日なりけり