加藤典洋の『敗者の想像力』を読む。
この本を「青春と読書」6月号でのマイケル・エメリックの書評で知る。
「図書」に連載中の「大きな字で書くこと」に加藤典洋は7月号からは父親の戦前の過去をめぐり書いている。これにはちょっとおどろいた。
敗者の想像力という観点で戦後の日本を見直そうというこの本のくわだては、第四章の《低エントロピーと「せり下げ」ーー山口昌男と多田道太郎》で、山口昌男と多田道太郎について触れている。
改めて問おう。
敗者の想像力とは、そもそも、どのようなものか。
いま消えようとしているとして、その実質は、どのようなものだったというべきか。
そしてその広がりは、どのような可能性にみちていた、いや、現にいま、みちているのか。
敗者の想像力という観点で、戦後日本を見直そうというこの本の企てには、すでにいくつか先行する試み、また、それを体現する経験の例がある。 138ページ
山口は、一九八八年三月、突如、エノケンと甘粕正彦を扱う。論考の掲載紙は岩波書店の『へるめす』、掲載の題名は、「知の即興空間」。それは当初、ランダムなトピック、いわば何を取りあげてもよい、山口に広い裁量権をゆだねた自在な連載枠中の単発だった。 139ページ
山口昌男の『「敗者」の精神史』の執筆の発端が1987年の映画「ラストエンペラー」で、満映理事長の甘粕正彦の理事長室にアール・デコ風の壁画が占めている場面を見たことからであったという。(「「挫折」の昭和史」)
1992年の山口昌男と松岡正剛の対話、『はみ出しの文法ーー敗者学をめぐって』は、二十年後に起こる日本の原発事故の安全神話の問題を先取りする予言的響きをもっているという。
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- 作者: 山口昌男
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