ポール・ヴェッキアリ監督とディアゴナルのこと

 昨年(2016年)11月に「ディアゴナル特集」の上映会が映像文化ライブラリーで開催された。
 ディアゴナルという言葉はフランス語で「対角線」を意味する。
 1976年に自由な映画作りをめざしてディアゴナルという名前の映画製作会社を設立したポール・ヴェッキアリ監督が、来館したのだった。
 監督の来館は、同時に開催中の広島国際映画祭とシネマテーク・フランセーズの共同企画による映像文化ライブラリーで開催された「ディアゴナル特集」への挨拶とディアゴナルの活動の回顧とトークショーのためだった。

 11月11日、マリー=クロード・トレユー監督の映画「シモーヌ・バルベス、あるいは淑徳」(1980年)を観に出かけた。
 上映前と上映後にポール・ヴェッキアリ監督の挨拶があった。(監督も鑑賞した。学芸員から明日の「ディアナゴル特集」の映画終了後、ヴェッキアリ監督と女優のフランソワーズ・ルブランさんを迎えてトークショーがありますから、みなさん是非参加してください、と説明予告があったのだ。)

 11月12日、オムニバス映画「愛の群島」(1983年)、この作品は九人の監督による様々な愛をテーマにした九編からなるオムニバスの作品である。(監督もこのオムニバス映画の一本の自作を観るのは久しぶりとのことだった。女優のフランソワーズ・ルブランさんも「愛の群島」の一本に出演している。)

 「愛の群島」は以下の九人の監督によるオムニバス映画である。

 ポール・ヴェッキアリ
 ジャック・フレネ
 ジェラール・フロ=クターズ
 ミシェル・ドラーエ
 ジャン=クロード・ギゲ
 ジャック・ダヴィ
 ジャン=クロード・ビエット
 セシル・クレルヴァル
 マリー=クロード・トレユー

 映画「愛の群島」の上映後にポール・ヴェッキアリ監督と女優のフランソワーズ・ルブランの二人の挨拶があり、通訳の女性が監督と女優の隣に控える。日本側からは二人の出席者が登場した。
 その四人によるトークショーを見物した。館内に残った観客は30人ほどだった。
 ステージで日本側出席者からの質問にポール・ヴェッキアリ監督と女優のフランソワーズ・ルブランさんが当時の映画製作を回想してその活動期のエピソードを語るのだった。
 非常に興味深い談話だった。
 奇妙なことに日本ではポール・ヴェッキアリ監督の作品がまったくといっていいほど公開されていなかった。トークショーの後に、質疑応答に女性が一人、手を挙げて質問していた。
 トークショーの日本側からの出席者の一人は東京のフィルムセンター(NFC)の岡田秀則氏だ、と某映画狂に教えてもらった。後日、司会役の人を学芸員に聞くと、新田孝行氏という人だという。新田氏はフランス映画研究者で、ディアゴナルの活動についての解説がネットに公開されている。この解説は非常にポール・ヴェッキアリ監督とディアゴナルを知るのに役だった。
 今回、ポール・ヴェッキアリ監督の設立した映画製作会社ディアゴナルの映画を観るのは初めてであった。しかも、ゴダールトリュフォーらと同世代で、「カイエ・デュ・シネマ」誌で批評家としても活躍したポール・ヴェッキアリ監督が自らディアゴナルの映画である「愛の群島」の製作をしていた当時のエピソードをユーモアを交えて上映後館内に残った観客へ語ったのだった。
 参照:ディアゴナルの映画作家たちhttp://www.nobodymag.com/interview/diagonale/01/index1.html

 また岡田秀則氏についてはちょうどよいタイミングで「映画という<物体X>」という本が出ていて読むことができた。立東舎の本である。映画フィルムの保存を勉強するフランス滞在記があり、フィルム保存の大切さを説かれている。また氏は映画のパンフレット、チラシの収集家でもあった!
 読んでいてフランスで鈴木清順監督は鈴木清太郎の名前で知られているようだ。
 なお、蓮實重彦岡田秀則の両氏の対談が本書に収録されている。
 映画をフィルムで観ることを愛好している人にはお勧めの映画本である。
 また二人の対談が立東舎のHPで一部公開中である。
 参照:「シネマテークの淫靡さをめぐって」

 余談をひとつ。
 12日のトークショーは参加者が30人ほどだったのだが(かなりの数の映画研究者が居られたような気がする。)、散会後にロビーでポール・ヴェッキアリ監督と女優のフランソワーズ・ルブランさんにサインを貰いたいと言う某映画狂と一緒に監督を呼び止めた。監督がトイレに行きたいと言って戻って来て監督から映画狂はサインをもらった。この時はルブランさんは姿が見えず、それで翌日の映画祭に映画狂はサインを貰ったそうだ。
 ヴェッキアリ監督にサインをお願いした時に、イタリアの文化に興味がありますと映画監督のフェリーニを話題にすると突然、監督は自分の好きなイタリアの映画監督の名前をイタリア語で話された。
 ポール・ヴェッキアリ監督が語ったのはヴィスコンティミケランジェロ・アントニオーニ、ヴァレリオ・ズルリーニの三人であった。(ヴァレリオ・ズルリーニの名前は後日、某映画狂から聞いて確かめた。)
 なぜなら、一瞬のことだったので、三人目の名は聞き逃していたのだ。
 ヴァレリオ・ズルリーニは、映画狂によるとアンナ・カリーナの出ている「国境は燃えている」やアラン・ドロンの出ている「高校教師」、クラウディア・カルディナーレの出ている「鞄を持った女」、マルチェロ・マストロヤンニの出ている「家族日誌」の監督であるそうだ。