キューバ映画から

キューバ映画特集

 「キューバ映画特集」から四作品を鑑賞する。
 フィルムは東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品。

 「エル・メガノ」(1955年、キューバ、25分、白黒、35ミリ、日本語字幕)の監督はフリオ・ガルシア・エスピノーサ、トマス・グティエレス・アレア
 沼地で木炭を採取する労働者の悲惨な生活を捉え、バチスタ政府から上映を禁止されたセミ・ドキュメント映画。ルイス・ブニュエルの「種なき土地」の系譜にも連なる、革命後のキューバ映画を先導したエスピノーサとアレアの共同監督作品。
 「われらの土地」(1959年、キューバ、19分、白黒、35ミリ)の監督はトマス・グティエレス・アレア
 農民が初めて自分の耕地を得て新しい村の建設を志す。革命最初期の記録映画で、アレアやエスピノーサらは平行してキューバ国立映画芸術産業庁(ICAIC)の設立に携わった。
 「はじめて映画を見た日」(1967年、キューバ、10分、白黒、35ミリ)の監督はオクタビオコルタサル
 東部山岳地方を訪れた巡回映写班を追った記録で、チャップリンに見入る人々の表情が印象的。テレビ出身で、プラハで学んだコルタサルの帰国第一回作品。

 「キューバ・アニメーション傑作集 フィルミヌートシリーズ」の監督はマリオ・リバス、トゥリオ・ラッジ、ファン・パドロン
 アニメーションによるミニ・ジョーク集で、政治風刺から男女関係のもつれまで大人向けのギャグが連発される。ややラテン的な吸血鬼やサムライも度々登場して、品のある笑いを提供している。


 「エル・メガノ」と「はじめて映画を見た日」が強く印象に残った。
 「エル・メガノ」は沼地の水底に眠る丸太を掘り起こしている人々がいる。人力で水底から丸太を岸へ引き揚げる。長い丸太は鋸(のこ)で切り、短くして引き揚げる。岸辺には水底から引き揚げた丸太が積み重なっている。黙々とその作業を続けている。
 それを集めて乾燥させて燃料として丸太を売って生活している人々だった。それを買い取る業者は丸太の値段を安く買いたたいている。彼らは値上げを要求することさえ自由にできない境遇に置かれている。
 彼らが働いている沼地に町からやって来たボートが通り過ぎる。裕福な観光客は沼地をボートに乗って周遊しているのだった。「キューバ映画特集」の解説によると、バチスタ政権から上映を禁止された作品だという。

 「はじめて映画を見た日」は、山岳地帯を巡回して山村の人々へ映画を観せる巡回映写隊の活動とその映画を観る山村の人々を撮影している。
 巡回映写隊の車は発電機や映写機やフィルムを積んで山道を進んで行く。一行は谷間の村に到着した。今夜の映写会を村の広場でする準備に取りかかる。村の子供に映画を観たことがあるか、と質問している。
 子供も大人も映画を観たことがないと答えるが、大人の少数は町で観たことがあると言う。
 電気が村に来ていないので発電機で映写機を回す。
 いよいよ星空の下、上映会が始まった。赤ん坊も子供も大人も全員が集まって広場に椅子を出して座って映画を観る。 
 生まれて初めて映画を観る子供の目が印象的だ。口を大きく開け驚きの目で見ている。
 人々は目を見張りスクリーンのチャップリンの姿に笑い転げている。