最高気温17℃。快晴で乾燥した風が吹く。爽やかだ。アセビ(馬酔木)の花が、房状に垂れ下がって咲いている。
中島健蔵著『昭和時代』のシンガポールでの体験談から一部引用すると、
赤道直下の生活
戦闘はすでに終っていた。熱帯の風物は戦争と無関係に美しい。フランボアイヤン(火焔木)の赤い花、ゴムの木の林・・・・・・。
初めに与えられた宿舎は、植物園の裏に接したナッシム・ロードにある邸宅だった。砲弾を受けて雨洩りが多く、大きな家ではあったが、惨澹たる状態であった。そこに小説家の井伏鱒二(いぶせますじ)、詩人の神保光太郎(じんぼうこうたろう)の二人と一緒にしばらく住むことになったのである。井伏鱒二は、わたくしたちとは別に、第一次の徴用でずっと戦闘に従ってシンガポールまで南下してきたのだった。神保光太郎はわたくしと同じ第二次徴用で、戦闘が一応終ってから南シナ海を輸送船で揺られて来たわけだ。 157ページ