「映画をこまかく楽しむために」

 週刊文春の1月30日号の小林信彦の「本音を申せば」第1046回、「映画をこまかく楽しむために」と題して、「椿三十郎」について書いているのだが、入江たか子について記している箇所があった。
 《てっとり早くいえば、「椿三十郎」はお家騒動ものである。三十郎はそれをききつけ、入江たか子のために踏み台になったり、(入江たか子は若き黒澤明にとっての大スターだった)、なぜかお家騒動に噛んでいる仲代達矢をにらみつけたりする。この中で三十郎がとなりの家の椿をまとめて小川に流してくれ、というところがあるが、そこは(本当は)真赤になった椿が流れてくるはずだった。今ならなんでもないだろうが、この映画が作られたころは技術的にむずかしかったらしい。この映画が有名になり、大ヒットしたのは、ラストの三船&仲代の対決のせいだ。》
 「入江たか子は若き黒澤明にとっての大スターだった」という小林信彦さんの指摘に注目。
 城代家老の奥方(入江たか子)とその娘(団令子)が二人並んで小屋の藁(わら)にもたれてすやすやと眠っている。春先の椿が咲く頃の季節を舞台にしているが、一方、外ではお家騒動の真っ最中で男たちが激しい争いを繰り広げている。静と動のこのギャップに見られるユーモア、笑いのセンスにニヤリとする。
 入江たか子のそのおっとりした演技が印象的である。