新刊から

 「波」11月号の「編輯後記」で楠瀬啓之さんが、七月に出た凄い本の紹介をしていました。二冊のうち一冊が、河出書房新社の本で、デルモア・シュワルツの短篇集『夢のなかで責任がはじまる』です。作品について、

 《シュワルツは坪内祐三さん偏愛の作家で、表題作は〈両親を描くのにこの手があったのか!〉と息を呑ませ、かつ〈映画〉というものの魅力に迫る傑作。》

 と、編輯後記にありました。

 参照:【アメリカ文学史上の伝説的作家】デルモア・シュワルツの本邦初短編集『夢のなかで責任がはじまる』7/22発売!|Web河出

 12月の新刊予定では、津野海太郎著「生きるための読書」に注目しました。

 

〈些事にこだわり〉を読む

 蓮實重彦さんの連載時評〈些事にこだわり〉を読む。

 渋谷駅周辺をめぐる再開発への時評。

 筑摩書房のPR誌「ちくま」2023年9月号に掲載の〈些事にこだわり〉第15回。

 二十一世紀の日本の首都に於ける超高層ビルの林立はその国の凋落を予言しているように思えてならない|些事にこだわり|蓮實 重彦|webちくま

 2024年5月号に掲載の〈些事にこだわり〉第19回。

 「本は売らないとたまるね」という中村光夫の名言、もしくは迷言の真実味について、実地に確かめてみるとどうなるか|些事にこだわり|蓮實 重彦|webちくま

 

「ウェブ望星」に移行

 月刊雑誌「望星」が10月号で休刊になり、ウェブマガジンに移行になるという。

 11月から「ウェブ望星」として再出発していた。

 https://web-bosei.jp

 岡崎武志さんの連載が「望星」にあったのだが、再スタートした「ウェブ望星」に連載があるかどうか、確かめてみた。「嗚呼ワンコイン・パラダイス」がありました。

 

「小説世界のロビンソン」から

 晴れのち曇り、最高気温25℃、最低気温15℃。

 花梨(カリン)の樹の枝に実が鈴なりである。

 収穫期は10月から11月という。花梨の樹は高木で、下の方の枝に付いている実を触ってみた。大きさは小さな林檎ほどあった。

 小林信彦著「小説世界のロビンソン」を読み続けている。

 「第九章 推理小説との長い別れ」のひとつ前の「第八章 〈探偵(たんてい)小説から〈推理小説〉へ」に、推理作家・加田伶太郎の「風のかたみ」について触れられているのに注目しました。

 小林さんは、つぎのように語っている。

 《「風のかたみ」(昭和四十一年一月号~四十二年十二月号「婦人之友」)は、谷崎潤一郎の「乱菊物語」(未刊)とならぶ王朝伝奇小説の秀作だと思うが、検非違使(けびいし)庁の鬼判官・高倉の宗康=怪盗不動丸という趣向で、読者をあっといわせる。かつて福永武彦の原稿をとりに通った都筑(つづき)道夫氏に教えられたのだが、「廃市」の作者は、実は、角田喜久雄の愛読者だったそうで、さもあろうと頷(うなず)ける。》

 《それはともかく、福永作品=純文学という隠れ蓑(みの)の下で、大時代なトリックを使ってみせた作者の推理小説心(ごころ)は、何人かの読者には通じたわけで、作家の幸せとは、たとえば、こうしたものなのだ。》

風のかたみ / 福永 武彦【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

 

 

 

 

「白水社の本棚」から

 先日、「白水社の本棚」2024秋号が届いた。

 連載の「愛書狂」(岡崎武志)に、東京の古本市や古本屋を巡っていて、古本がとにかく安いと、筆者の岡崎さんが文学全集の数々の値段を見て驚愕している。漱石、鴎外、荷風、鏡花などが一冊あたりにすると、百円、二百円という。
 エッセイの「ジョージア映画祭を主宰して」(はらだたけひで)に注目。
 冒頭から、一部引用すると、

 《ジョージア、かつて日本ではグルジアと呼んでいた国の映画の虜になって四十六年になる。出会いはこの国の放浪の画家ピロスマニだった。私は神保町にあった岩波ホールで長く映画上映の仕事に携わってきたが、一九七八年にジョージア映画『ピロスマニ』の公開を担当してこの映画に深く魅せられた。映画の静謐さ、画家の絵に対する純粋さに心を奪われた。
 当時はグルジアジョージアという国の名を日本で知る人は少なく、ましてピロスマニについてはほとんど知られていなかった。上司だった総支配人の高野悦子は、私が岩波ホールへ来る前はピロスマニのように独学で絵を描き、地方を転々としていたので、映画の担当に相応しいと考えたのだろう。》  2ページ
 
 「ジョージア映画祭2022 コーカサスからの風」に、放浪の画家ニコ・ピロスマニ特集があり、セルゲイ・パラジャーノフ監督の『ピロスマニのアラベスク』(1985年)とギオルギ・シェンゲラヤ監督の『ピロスマニ・ドキュメンタリー』(1990年)を観たのだった。
 その翌日、ギオルギ・シェンゲラヤ監督の『ピロスマニ』(1969年)があったのだが見られず。
 この日、上映終了後のトークゲストに、はらだたけひで氏のトークがあったのに見聞できず。
 そういうわけでこのエッセイに注目した。

「不連続殺人事件」資料編

 坂口安吾の「不連続殺人事件」が、中公文庫の新刊で出ていた。

 手に取ってみると、資料編が充実しているのに驚いた。

 大井広介の書いた葉書が、写真で掲載されている。

 坂口安吾の「不連続殺人事件」が、どのような経緯(いきさつ)で書かれたのか、資料編を読むとよく分かる。

 資料編に収録されているのは,

 平野謙

 大井広介

 荒正人

 江戸川乱歩

 埴谷雄高

 佐々木基一

不連続殺人事件 / 坂口 安吾【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

 

 

 

 

ファーブル「昆虫記」

 鷲巣力著「林達夫ドラマトゥルギー」の第2幕、その第3場。

 ファーブル『昆虫記』ーー悪文と名訳

 林は、『昆虫記』の翻訳に強い思い入れがあった。

 鷲巣氏がまだ駆け出しの編集者見習いをしていた頃に、林との会話でたまたまファーブルの『昆虫記』の訳文に話が及んだときのエピソードが興味深い。

 『昆虫記』は、山田吉彦きだみのる)と共訳をしている。

 一部引用すると、

 

 《山田吉彦(筆名きだみのる)との共訳で名訳との誉れ高い書である。「あれは名訳といわれるが、名訳とはいえない」といった。その理由は何だろうかと尋ねた。「ファーブルのフランス語はごつごつした感じがあるんだけれど、それが訳せていない」と林は答えた。その答えに驚いた。そこまで訳出しようと考えていたのか。アナトール・フランスは、ファーブルのフランス語を「天下の悪文」だといったそうだが、それを「きだ・みのる」と僕とがシックな、しゃれたスタイルにして、日本の読者を誤らせている」(前掲『思想のドラマトゥルギー』四九四頁)と林はいう。》