温泉旅日記

 清水宏監督の映画「簪(かんざし)」(1941年、松竹・大船)は、山梨県下部温泉が舞台で、井伏鱒二の「四つの湯槽」の映画化作品。

 池内紀著『温泉旅日記』の「ほうとう記」は、下部温泉への日帰り温泉旅日記。

 《昼すぎに用事が終わったりした日など、新宿駅に特急が入ってくるのを見るとヒョイと跳びのりたくなる。》

 源泉館の風呂と外の食堂兼飲み屋の食べ物、ほうとうに熱カンで一杯。

 《とっぷりと昏れた下部駅にふやけぎみの体を運びこむ。待つことしばし、暖房のきいた電車がやってくる。あとはうたた寝の戻り旅。ほうとう記、あるいは、わが放蕩(ほうとう)記。見る人がみれば、しみったれた遠出にすぎないだろうが、当人は大満足なのだ。座席にゆったりと腰を沈め、顎(あご)に手をあて、みちたりた顔で窓外の夜景をながめている。こころなしか、その顔が福々しい。

 いま気がついたが、もう何度となく、このようなブラリ甲州ほうとう温泉日帰り旅をやってきた。》

 

温泉旅日記 (徳間文庫)

温泉旅日記 (徳間文庫)

 

 

新刊案内から

 筑摩書房のPR誌「ちくま」10月号の新刊案内を見ています。
 今月のちくま文庫の一冊では、『温泉まんが』(山田英生・編)に注目した。
 先月、清水宏監督の映画「簪(かんざし)」(1941年、松竹・大船)、青柳信雄監督の映画「風流温泉 番頭日記」(1962年、宝塚映画)を観た。
 前者は、井伏鱒二の「四つの湯槽」の映画化。後者は井伏鱒二の小説「掛け持ち」の映画化作品。
 映画『簪』は身延山に近い下部温泉が舞台で、簪(かんざし)が湯舟に落ちていたためにケガをした帰還兵(笠智衆)と落とし主の女性(田中絹代)が東京から下部温泉へ駆けつけた後日談。夏休みの時期の温泉場を舞台にした湯治客同士の人間模様がユーモラスに描かれている。
 ラストは、ほろ苦く、休暇が終わった湯治客が温泉場を去って行く。
 ケガをした足の笠智衆が、田中絹代を背負って、渓流を幅の狭い板を並べた橋をふらつきながら渡る場面がある。
 一歩一歩前進するリハビリ中の笠智衆の足元がふらふらして、今にも姿勢を崩して川へ落ちそうになる。
 足元の一歩一歩がスリリングで、見る者は一歩一歩に目が釘付けになる。

 温泉をめぐる本といえば、池内紀さんに『湯けむり行脚』という新刊がありました。池内紀の温泉全書。

www.hanmoto.com

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「没後50年 成瀬巳喜男監督特集」

《10月から11月にかけて、没後50年にちなんで、成瀬巳喜男監督(1905―1969)の特集を開催します。巧みな生活感の表現や繊細な心理描写で、家族のドラマや女性の生き方を描き、数々の秀作を残した成瀬巳喜男監督。今月は、ベスト・ワンに輝いた1930年代の代表作『二人妻 妻よ薔薇のやうに』、夫婦の葛藤と和解を描いた『めし』、ベテラン女優の競演で味わい深い作品に仕上げた『晩菊』、成瀬芸術の集大成ともいえる高い完成度を示した『浮雲』などを上映します。日本映画の芸術性を高めた巨匠の一人、成瀬巳喜男監督の世界をご堪能ください。》(10月プログラムより)


 成瀬巳喜男監督の映画『二人妻 妻よ薔薇のやうに』を鑑賞。
 (1935年、P.C.L.映画製作所、74分、白黒、35ミリ)

 出演/千葉早智子丸山定夫英百合子、伊藤智子、藤原釜足
 中野実が書いた新派の舞台劇『二人妻』の映画化。歌人である妻、家庭を離れ砂金を探して暮らす夫、その夫に献身的につくす愛人。三者三様の微妙な立場を、若い娘の目を通して描く。『キネマ旬報』のベスト・ワンに輝いた作品。(10月プログラムより)

 冒頭のタイトルのシーンが長い。上に二人妻、下に妻よ薔薇のやうに、と二段表記。
 フィルムの音声と映像の状態は良かった。
 家を出たまま長い年月、東京の家へ帰って来ない父(丸山定夫)を待つ娘(千葉早智子)は、歌人の母(伊藤智子)と二人で暮らしていた。信州の山村で砂金探しに取り組んでいる父から、生活費は書留で定期的に送られてきていた。
 娘は都心の会社で勤めている。月給45円。
 母が、短歌の生徒の婚礼の仲人を頼まれた。娘は母のために、父に仲人として母に連れ添ってもらいたくて東京へ呼び戻そうと決意して信州の山村へ出かけた。
 父は山村で愛人(英百合子)と二人の子供(娘と息子)との所帯を持って暮らしていた。
 その事実に驚くとともに、愛人が父に代わって生活費を定期的に東京の母と娘の家へ送金していたことを知る。父と母、愛人との三角関係の微妙な感情を見事に娘の目から描き味わい深い作品。
 藤原釜足は、母の伯父を演じている。
 歌人の母が、芸術家肌で自分の気持ちを上手く夫へ伝えられないのがもどかしい。

 

scriptaの新刊

 

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 残暑で曇り空。湿度が高く、蒸し暑い。最高気温31℃。

 酔芙蓉(すいふよう)の花が目を楽しませてくれる。

アオイ科の落葉低木。暖地の海岸近くに自生。葉は手のひら状に裂けていて、先がとがる。夏から秋、葉の付け根に淡紅色の大きな五弁花を開き、一日でしぼむ。園芸品種には白・紅などの花色や八重のものもある。きはちす。  『大辞泉

 紀伊國屋書店のPR誌scriptaのno.53を頂く。春、夏、秋、冬と季刊の雑誌。

 連載物が読ませる。

 中古典ノスゝメ(斎藤美奈子

 30年後の「谷根千」(森まゆみ

 中年の本棚(荻原魚雷

 半農半翻訳な日々(吉田奈緒子)

 

 

 

 

秋水に大鯉騒ぐこともなし

 

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 朝晩は気温が下がり、過ごしやすくなった。公園の池に睡蓮(スイレン)が眺められる。人々の喧騒を離れて静かに咲いている。水中に小さなメダカが数匹と集まって、泳いでいる。

 「秋水に五色の鯉の主かな」

 「秋水に大鯉騒ぐこともなし」

 松本たかしの昭和十三年(1938年)の句である。

 同年の春の句に、「庭先の梅にすぐある山路かな」という句があって、「久米正雄邸にて」という前書きがある。

 先月(8月)の新刊に、『久米正雄作品集』(岩波文庫)が出ている。

 www.iwanami.co.jp

 

「ぼくの美術書ノート」のこと

 書店で手に取った美術雑誌「一枚の繪」10・11月号に、「ぼくの美術書ノート」という連載記事を見つけた。池内紀さんの文章でした。東野芳明著『グロッタの画家』をめぐる若き日に読んだ美術書とその時代に出ていた美術雑誌に登場した美術評論家たちをめぐる興味深い文章がつづられています。

ichimainoe.co.jp

 

PR誌から、ずっと《エトランジェ》でありつづける

 夕方から台風の風が吹き始める。最高気温27℃、湿度が高い。

 書店に寄った時に、講談社のPR誌「本」10月号を頂く。毎月、早めに書店に届くPR誌だ。

 今年の出版界でのPR誌の話題といえば、KADOKAWAのPR誌「本の旅人」が七月号をもって休刊することになったことであろうか。「図書」9月号の巻末、「こぼればなし」に、この休刊について、今後のPR誌のゆくえについて記していた。

 さて、「本」10月号では、堀江敏幸町田康西川照子の各氏の文に注目した。

 「文芸文庫フェアに寄せて」へ、「ずっと《エトランジェ》でありつづける」というタイトルで堀江敏幸さんが、3ページのちょっと長めの文を寄稿している。