東の空が明けゆく頃、吹く風が涼しい。
明けゆく空とともに、蝉が鳴き始めた。
お盆の入りに、夜クマゼミが家に飛来した。だが、どこかに消えてしまう。
翌朝、羽音で意外な場所にクマゼミがいるのを発見し、捕まえて、手にとって、間近に観察した。その後に、外に逃がしてやる。クマゼミは羽ばたいて飛んで行く。
明治二十八年、正岡子規の句に、「秋立つやほろりと落ちし蝉の殻」。
夕方、ハスの花を見に寄った池で、シオカラトンボを見つけた。
指を指してぐるぐると回して、だんだんとトンボに近づけていき、パッとつかまえていたことを思い出す。
これ、忍法指まわしの術なり。
トンボが回る指から逃げないで、金縛りにあったかのように、動けなくて捕まえられる。
赤トンボやシオカラトンボへ、この術が効く。
トンボ科の昆虫。中形で最も普通のトンボ。四〜九月に現れ、成熟した雄は腹に青白粉を装う。雌は淡黄褐色でムギワラトンボという。 『大辞泉』
老舗古書店支店に寄る。鉄道の紀行本と上海戦線での戦闘をルポした作品の二冊を買う。そのうちの一冊は日比野士朗著『呉淞クリーク/野戦病院』(中公文庫)。
呉淞は、ウースンと読む。解説が半藤一利である。
文庫カバー見返しに、次のようにある。
日比野士朗は、《明治三十六年(一九〇三)東京生まれ。旧制第八高等学校中退。小学校の代用教員を勤め、のちに河北新報に入社。昭和十二年(一九三七)応召。加納部隊の一伍長として上海戦に加わる。呉淞クリークの渡河激戦で左腕を負傷し、帰還。十四年『中央公論』二月号に「呉淞クリーク」を発表。同年七月に他篇と併せて中央公論社より『呉淞クリーク』を処女出版。池谷信三郎賞を受賞する。》
- 作者: 日比野士朗
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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