「戦後70年特別対談」から

田村俊子

 「群像」9月号を手にとってみた。
 「言葉の危機に抗って」という「戦後70年特別対談」で、瀬戸内寂聴×高橋源一郎の二人が語り合っている。
 瀬戸内さんの『美は乱調にあり』をめぐって、


 高橋 (前略)また縁の話をすると、伊藤野枝大杉栄を殺したといわれる甘粕大尉は僕の大叔父で、僕が生まれたころには帝塚山に実家があったんですが、そこにはよく甘粕さんがいらして、高橋家の女たちのアイドルだったらしい。
 瀬戸内 すごいハンサムだったらしい。
 高橋 そうそう。すごく魅力的だったと言われているので、僕には悪人の印象はなくて。『美は乱調にあり』を読んだときに、あ、おばあちゃんたちが言っていた甘粕さんだ、って。
 瀬戸内 私、甘粕さんは嫌いじゃないですね。だから、そんなに悪く書いてないでしょう。
 高橋 そうなんです。少し前に赤川次郎さんと話をしたんですが、赤川さんのお父さんは満映で甘粕大尉の側近だった。だから甘粕さんのことを、よくご存じなんです。
 瀬戸内 そういったら、世の中狭いですね。  122ページ


 瀬戸内晴美著『田村俊子』を最近読んだので、対談で瀬戸内さんが田村俊子をめぐり語っているのに興味を持った。

 田村俊子を追究して、調べて書いた『田村俊子』は第一回の田村俊子賞をもらった。
 その選者の武田泰淳さんとのエピソードである。

 瀬戸内さんと二人きりの時、「俊子は瀬戸内さんの俊子だね」といわれたそうだ。
 その真意は、《それは、本当の俊子は誰にもわからないよってことでしょ。その時、ハッとしました。でも選者として武田さんは、しっかりほめてくれてるんです。結局、わからない、でもわかるところまで書けばいいんだと悟りました。自分の書く人物に、次に書く人を教えられて、女たちの伝記を書き続けました。》  131ページ

美は乱調にあり (角川文庫)

美は乱調にあり (角川文庫)

田村俊子―この女の一生 (角川文庫 緑 265-1)

田村俊子―この女の一生 (角川文庫 緑 265-1)