無花果を檣燈(しょうとう)顫(ふる)へ進みゐし

 
 「無花果を檣燈(しょうとう)顫(ふる)へ進みゐし
 「曾(かつ)て大阪安治川河口、税関官舎に住みき」の前書きがある。


 檣燈(しょうとう)とは、夜間の航行でマストの前方につけている白色光の灯火。
 「無花果を檣燈(しょうとう)顫(ふる)へ進みゐし
 「檣燈(しょうとう)顫(ふる)へ進みゐし」とは、安治川を夜の船の灯火がエンジンの振動で小刻みの震えながら進んでいるよ。

 中村汀女の昭和十四年(1939年)の俳句です。

 この年の句に、銀座所見、上野不忍池畔、東京駅、靖国神社臨時大祭、小石川後楽園、北澤八幡、銀座などで詠んでいるのだが、東京駅で汀女は「征く人」や征く人の履いている靴ひもが新しいということを見逃さなかった。

 「征く人の御父尊と東風の駅
 「みいくさに東風に靴紐新しく