蚊起きあがる倒れし馬の起きる様

 街路樹のノグルミの果実が鈴なりになっている。
 棘(とげ)を触ると堅い。見た目はハリネズミのような感じがする果実である。


 「夜の木犀老(おい)の聲音はのんどより
 「秋の蠅一つ眞水の上に死す
 「蚊起きあがる倒れし馬の起きる様


 中村草田男の俳句で、昭和二十一年(1946年)の句である。
 「蚊起きあがる倒れし馬の起きる様
 蚊に刺された草田男は、手でたたき落とした小さな蚊を観察している。
 作者の目には、起き上がろうしている小さな蚊の姿が、大きな倒れた馬が起き上がろうとする様子に見えた。