夏目漱石をはじめ、森鷗外、志賀直哉、島崎藤村など、著名な作家の小説を映画化した作品を特集します。上映作品は、漱石文学を松田優作の主演で映画化した「それから」、島崎藤村の名作を新藤兼人が脚色し、吉村公三郎監督が時代考証にこだわりを見せた「夜明け前」、森繁久彌と淡島千景の名演が光る「夫婦善哉」、福山出身の井伏鱒二の代表作をもとにした「本日休診」などです。この機会に、文学の名編から生まれた銀幕の名編を、お楽しみください。(1月プログラムより)
渋谷実監督の映画『本日休診』(1952年、松竹大船、1時間37分、白黒、35ミリ)を観る。
脚色が那須良輔、撮影は長岡博之。
三雲医院では、開業一周年記念日を休診にしようとするが、三雲先生のもとには次々と患者が現れ、騒動が巻き起こる。井伏鱒二の『本日休診』をもとに、『遥拝隊長』のエピソードも加え、当時の世相を反映させながら三雲先生の多忙ぶりを描く。
出演
三雲八春・柳永二郎
三雲伍助・増田順二
加吉・鶴田浩二
お町・淡島千景
悠子・角梨枝子 *1
湯川春三・佐田啓二
湯川三千代・田村秋子
お京・長岡輝子
勇作・三國連太郎
松木巡査・十朱久雄
竹さん・中村伸郎
ヤクザの女・望月優子
ヤクザの男・諸角啓二郎
兵隊服の男・多々良純 *2
柳永二郎が飄々とした人情味ある老医師を演じている。
三雲先生の甥(おい)の伍助が院長で、三雲医院は、開業して一周年記念日を休診にして、伍助や看護婦らの若い者は温泉旅行に出発した。
後に残った老先生(柳永二郎)は休日をのんびり過ごそうとしていたが、次から次と患者がやって来るのだった。
一筋縄ではいかない患者にも人情味あふれる対応をする老先生。
脇役だが、看護婦の滝さんの岸惠子の演技も印象的だ。婆やのお京を長岡輝子、その息子の勇作(三國連太郎)は戦争の後遺症で時折頓珍漢な行動をする。突然に軍隊式の行動をして周りの人を驚かせる。だが、勇作の母や三雲医院や近所のひとは勇作に優しく接しているのだった。
戦争の傷がまだ残る時代だ。三雲先生も戦争で一人息子を亡くしている。
昭和27年(1952年)当時の東京の鉄道沿線の風景が見られるのも今では貴重な映像だ。
松木巡査(十朱久雄)が大阪から上京して来たが騙されて暴漢に襲われた娘を診てくれと連れて来た。
十八年前の昔、三雲先生の帝王切開で生まれた母子(田村秋子、佐田啓二)が治療費を払いに訪れて来たが、大阪へ帰れないと言う娘の悠子(角梨枝子)を引き取った。
松木巡査(十朱久雄)が、悠子を騙して持ち物を盗んだヤクザの夫婦(諸角啓二郎、望月優子)を見つけて追っかける場面も見どころだ。
恋人のお町(淡島千景)の制止を振り切ってヤクザ風を吹かす加吉(鶴田浩二)は指を摘(つ)めてくれと三雲医院に来た。追って来たお町の前で三雲先生は加吉を諭すのだが・・・。
お町の兄・竹さん役の中村伸郎が若々しい!