三遊亭円生の声

 晴天で陽射しが強い。遠くの方まで澄みきった冬空だ。風は穏やかである。川岸の浅瀬にカモの群れがいた。胴体の模様が見事だ。なにやら石についている餌(えさ)のようなものを、ついばんでいる。渡り鳥が一時、この水面に漂着しているらしい。カモを眺めている時に、一羽のカモメが近寄って来た。するとカモの近くを一度旋回した後、遠くの方に飛び去って行った。
 午後八時頃、南東の空にオリオン座が眺められた。中央の三つ星、それを囲むようにベテルギウスやリゲルが明るい。その少し左下にシリウスが明るく輝いていた。
 『本の窓』2月号で(九代目)林家正蔵の連載『こぶ平改め正蔵流「多芸で楽しむ」』を読んだ。その中に三遊亭円生に初めてかけていただいた言葉のエピソードがあった。それは「おやおや・・・」という言葉。

 そのときたまたま、マラソンか何かの中継だったでしょうかね、ぴゅっと立ち上がってテレビを見にいかれたんです。で、立っている師匠に、こちらも立ったまんま、
 「師匠、お茶でございます」
 って言ったら、少し驚かれて、
 「おやおや・・・」
 と。それが初めてかけていただいた言葉です。おやおやがはじめて。
 「おやおや、お茶てえものは、師匠が座ってから出さなくちゃいけない。そんなことがわからないなんて、おまえさんどこの前座だ」
 「ええ、あのう、三平のとこの」
 「じゃあしようがないな」
 って。
 小噺のようですが実話です、はい。
 「おまえさんかい、あの、倅(せがれ)ってえのは」
 「はい」
 「おやおや」
 ええ、頭におやおや、下におやおや、おやおやスタートでございました。  64頁

 この三遊亭円生の声が聞こえてくるような話とエピソードが面白い。小林秀雄の話が聞ける新潮社のカセット・ブックというカセット・テープで講演を聴いたことがあった。その時に感じたのは、小林秀雄の話しっぷりが三遊亭円生にそっくりなことだった。うーん。これには驚いた。