女優、竹久千恵子さんのこと

ナツメ

 台風が去った後の通りに、風に吹き飛ばされた街路樹からの木の実が散らばっている。ナツメの木の前を通り過ぎる時に、根元の周辺の草むらに紅く熟したナツメが散乱していた。近寄って観察する。ずいぶん大きな実である。ゴロンと転がっている紅い実は、どれを取っても実が裂けている。鳥がついばんだのかな。そういえば、スズメの群れが、街路樹の周辺の地面から地面へと飛び回っていた。
 今朝の朝日の朝刊に、竹久千恵子さんの訃報記事があった。合掌。鶴見俊輔加藤典洋黒川創の『日米交換船』*1(新潮社)の交換船に乗船されていた女優。鶴見さんをして、

鶴見 いや、おもしろいね。いいなあ!
加藤 クラークは一九八五年、脳溢血でなくなった。竹久千恵子は、そのあとワシントンの家を処分して、ハワイに移った。長男が住む家の近くに家をたてて住んでいる。アメリカでもなくて、日本でもなくて、ハワイ。中空に浮かぶようなところに住んでいる。
鶴見 偉大な生涯だよ。
加藤 大正時代のモダンガールを最後まで貫いたんです。貫いたから日本にいられなかった。
鶴見 この人は未来的な人間だね。日本はやがて亡びるけれども、亡びたあと出てくる日本人はこういう人だ。  245〜246頁

 と言わしめた人物。先月、日米交換船に乗船していた鶴見和子さんも亡くなられた。当時の記憶が薄れていく中で、だからこそ、彼女をヒロインにした映画をつくって欲しいということが、「歩行と記憶」で書かれている。
 同じ朝日の「漂流する風景の中で」で、〈吉本隆明さんと考える現代の「老い」〉というインタビューを読んだ。聞き手は松本一弥氏。

 振り返れば、こうした政治や社会の問題については自分なりに考えてきたつもりだったが、老人が直面する問題はやっぱり老人になるまでわからなかった。いい年をしていろいろな目にあって、ようやくそれが見えてきた。
 「もう一個違う系列の問題があった」。そう新鮮に感じながら僕は日々を送っている。