「鶴見俊輔さんと語る」という対談のこと

ヒドリガモ

 北東の空に月が昇っていた夕暮れ時、橋を渡っていると水面に月が映っているのだった。
 岸辺に渡り鳥のヒドリガモが泳いでいる。ピュー、ピュー。という鳴き声が聞こえて来る。
 今朝の朝日新聞で「鶴見俊輔さんと語る」という対談を読む。お相手は在日16年の詩人、アーサー・ビナードさんで、《心に届かぬ言葉横行》と題して、日本語の変化や社会とのかかわりを話し合っていて、興味深い。
 国家の前にまず社会があると知った一人が金達寿だ、と鶴見さんは言う。その後、「日本の近代に官僚の言葉に毒されなかった散文の系列がある。それを掘り起こしたい。」として、そのトップに岸田吟香を挙げる。以下、進化論を広めた丘浅次郎。明治のサムライ言葉にも大学言葉にも毒されず、日本語本来の筋を発見した梅棹忠夫。女性でいえば、大逆罪で捕まった金子文子

ビナード ぼくにとって日本語の散文の師の一人が作家の小沢信男さんです。小沢さんは町の見つめ方、題材との距離の取り方がすばらしい。
鶴見 それは俳諧の手法ですな。彼は俳句もうまいし、当代随一の書き手です。花田清輝(文芸評論家)がかれを最初に認めたんだ。

 最後に、鶴見さんが、「われわれが言葉を習うのは母親からだが、明治時代に漢訳仏教の用語を受け皿にして西洋の学術を日本語に移し替えたとき、女性の言葉や言い回しを排除した。それを元に戻し、考える日本語の散文選を作るのが、ぼくの70年来の理想だ。それをビナードさんに託したい。」と。