ビクトル・エリセの『エル・スール』

白モクレン

 白モクレンが満開で、散り始めていた。暖かい。快晴。
 ビクトル・エリセの『エル・スール』(1983年、スペイン、95分、カラー、ヴィスタフランス映画社)を観る。一週間限定上映の初日。サロンシネマ2で、観客は40人ほど。
 『ミツバチのささやき』の作品につづいて、『エル・スール』のニュープリント上映である。
 冒頭、夜明け前に父が家出する時の場面。1957年。
 犬が吼える声がする。暗闇だった娘の寝室が次第に明るくなってゆく。
 夜明け前の暗かった寝室が次第に明るくなり、朝を迎える情景の静謐な映像が素晴らしい。
 スペイン内戦当時の傷を抱えていた父とその娘。
 娘の眼から知った父の知られざる内戦の時代の秘密と家族の絆をめぐる思いが回想される。余韻のある様々な父とのエピソード。娘の祖母と父の乳母の南からの来訪と交流。
 最後に娘が一人で祖母のいる南の土地へ静養のために旅支度する場面の微かな希望・・・。
 『ミツバチのささやき』『エル・スール』とどちらもスペイン内戦の時代にふれている。
 見終わって、外へ出ると商店街の路上でライブの演奏の音が聞こえて来た。
 ブラスバンドのような響き。