28日、タル・ベーラ監督の映画『倫敦から来た男』(2007年、ハンガリー・ドイツ・フランス、138分、白黒)を横川シネマで観た。
ジョルジュ・シムノンの小説『倫敦から来た男』の映画化。抑制の効いた息詰まるような沈黙に覆われた犯罪サスペンス映画である。
冒頭、カメラの長まわしの撮影による客船を船首の下の喫水線近くから、徐々に上へとカメラが移動してゆく。やがて徐々に甲板が見えて来た。
甲板が見えると甲板に男が登場して、船が接岸して鉄道へ乗り換える側とは反対の埠頭へトランクを投げ落とす。
船と鉄道の列車とが、左と右に並ぶようにあるのが見下ろせる鉄道の司令塔(コントロール・タワー)の中から夜勤で一人勤務中のマロワン(ミロスラヴ・クロボット)が目撃する。
その後、そのトランクをめぐって二人の男が港の防波堤の上で奪い合いをしていた。その一部始終をマロワンは一人、つぶさに目撃することになったのだ。
防波堤の上から一人の男が相手によって海へ突き落とされた。トランクもろとも海中に沈んで行った。
あきらめてか、男は近くのホテルへ帰っていく。目撃したマロワンは現場へ駆けつける。
マロワンは海中からトランクを拾い上げて司令塔へ戻るのだった。ずぶぬれのトランクを開けると、ポンド紙幣の大金(6万ポンド)があった。
男の水死体が揚がって、6万ポンドの大金の行方を捜査している刑事がロンドンからやって来て、マロワンにも捜査の手が伸びる。
大金を手にしたマロワンが妻(ティルダ・スウィントン)や娘のアンリエット(ボーク・エリカ)にプレゼントをして喜ばせようとするのだが、犯罪を犯して大金を入手したことを秘めていることから、家族との関係がぎっくしゃくしてくるのだった。
マロワンは証拠隠滅を図って大金をロンドンで盗んだ犯人一味の一人のブラウンを、監禁していた海辺の小屋で殺害する。
ロンドンからやって来たブラウンの妻と刑事との対話で夫の死を知らされて、この妻の眼から流れる涙が印象的だ。
セリフは少なく、波止場へ打ち付ける波の音、カフェ・ホテルのなかでアコーディオンの奏でる曲、ディーゼル機関車の列車の音、鉄道の線路のポイントを切り替える音など、もうひとつのセリフのようだった。
登場人物の動きの心理に合わせたようなゆっくりしたカメラの長回しによる映像の美に驚く。
刑事がフランス語と英語、話者によって言葉を切り替えて話すのも興味深かった。