「フランス映画特集 黄金期の作品たち」が、10月8日から映像文化ライブラリーで始まった。
初日は、ジャン・ルノワール監督の『素晴らしき放浪者』(1932年、フランス、85分、白黒)である。原題:BOUDU SAUVE DES EAUX。夜の部で観客は20人余り。
パンフレットに、
「大いなる幻影」のジャン・ルノワール監督が自由気ままな放浪者を主人公に文明社会を皮肉ったコメディ。気ままな放浪者ブデュはあの世へ行こうとセーヌ川に身を投げたが、古本屋の男に助けられそのまま居候をする。助けてもらった恩を仇で返していく常識はずれの行動の先に待ち受けるものは・・・。
映画がはじまり、スクリーンにクレジットの文字を見ていると、助監督としてジャック・ベッケルの名前を見つける。
放浪者ブデュ(ミシェル・シモン)は犬を可愛がっていたが、その犬が居なくなって公園を捜(さが)し歩き回る。
公園で散歩をしている母子連れがブデュを見ると、放浪者然とした彼を気の毒にと思ったのか、ブデュにお金を与えて去って行く。
お金には無欲で欲しくもないお金を受け取ったブデュは、公園の道で乗用車を停めていた紳士を見つけると、歩み寄ってドアを開ける。出てきた紳士がチップをブデュに渡そうとするが、ポケットにあいにく小銭がない。すると逆に、手をだせと、ブデュが紳士に母子からもらったお金を渡して、素早く去って行くのだった。
何が起ったのか唖然としている紳士の姿が可笑しかった。
映画のシーンにフルートの音色が何度も聞こえて来る。この音色がいい。
だが、突然、パリの街で犬を探していた放浪者ブデュはセーヌ川へ身を投げる。
それを見ていた古書店の亭主に助けられ、居候をさせてもらうことになるのだった。
しかし、ブデュといえば古書店の亭主と妻、女中のアンヌ=マリたちを恩に感じるのでもなく、傍若無人に振舞う。
中心のないふにゃふにゃしたような力みのないからだの動きで、居候らしからぬ蛮行、狼藉っぷりで人のいい古書店主一家をかき乱すのだが・・・。
亭主のくれた宝くじが当たって10万フランを手にしたブデュは、亭主の愛人だった女中のアンヌ=マリとめでたく結婚することになる。
結婚式の当日、ブデュとアンヌ=マリと古書店の夫婦らがボートに乗っている時、川を流れている花を取ろうとして、ブデュが流れる花に手を伸ばした。
ボートがバランスを失って転覆し、全員が川へ投げ出されてしまう。
ほうほうの態(てい)で、皆が岸辺へたどり着くが、ブデュだけが川の流れに身を任せるように流されて行く。
その川の水面の輝き、流れ、自然のきらめく風景、風といった映像が素晴らしい。
体から緊張がなく脱力した動きをするブデュが川の流れにまかせてそのままいずこへと流されて行く。
流されて行ったブデュは、岸辺へたどり着く。濡れた衣服を脱ぐと見つけた案山子(かかし)の衣服に着替えてアンヌ=マリのことなど忘れ去ったかのごとく、世の中の束縛から抜け出したような放浪者に再び生き生きと戻って行くのだった。