『悲しき口笛』と『東京キッド』

東京キッド

 今月は「特集・音楽映画への招待」が映像文化ライブラリーで始まっている。
 3日、家城巳代治監督の映画『悲しき口笛』(1949年、松竹、83分、白黒)を観に寄る。
 満席で立ち見が出るほど盛況であった。
 プログラムに、
 美空ひばりの銀幕における初期の代表作。戦後の荒廃のなかで、兄と離れ離れになりながらも、歌を支えに生きる少女の物語。同名のレコードとともに映画もヒットし、天才少女歌手・美空ひばりの人気を高めた。
 横浜で戦災で家を失って、孤児となった少女ミツコを美空ひばりが好演している。
 ミツコの兄(原保美)は、「悲しき口笛」という曲をつくって出征していた。
 復員して横浜でどこにいるかと妹を探していた。
 ミツコはこの歌を歌い生きる支えにしている。
 失業中のバイオリン弾きの父(菅井一郎)と家計のためビアホールで働く娘(津島恵子)の親子に、ある夜、ミツコが空き地のコンクリートの土管に眠っていたのを発見され、拾われて二人の住いに一緒に住むようになるのだった。
 戦後間もない時期の横浜、路面電車、伊勢佐木署、外人墓地、波止場・・・などがスクリーンに映し出される。
 ラスト近くのミツコがシルクハットに燕尾服で歌うシーンがなんとも素晴らしい。
 この「悲しき口笛」を歌っているのを耳にした兄は妹との再会を無事果たすのだった。


 8日、斉藤寅次郎監督の映画『東京キッド』(1950年、松竹、81分、白黒)を観る。
 プログラムに、
 不幸な少女マリ子と、彼女の面倒を見る流しの歌手・三平。喜劇の名手・斉藤寅次郎監督が、2人の絆を歌と笑いを交えて描く。美空ひばり川田晴久を中心に、堺駿二榎本健一らにぎやかな面々が加わり、当時としては珍しいハワイロケのシーンも盛り込まれている。 
 マリ子のアメリカから帰国した父を花菱アチャコ、似顔絵画家の新六を堺駿二、歌を聴くと踊り出す風変わりな易者を榎本健一が演じている。アイスキャンデーを子供らに売るシーンがなんとも騒々しくにぎやかな人物。
 美空ひばりが「東京キッド」を歌うと易者は踊りだす。
 映画の中で美空ひばりが歌うもうひとつの歌に「悲しき口笛」がある。
 前年の『悲しき口笛』がヒットしたことからこの『東京キッド』がつくられたのだろう。
 流しの歌手役の川田晴久と似顔絵描き役の堺駿二のコンビが実にいい。堺駿二も若く、川田晴久の肩の力を抜いた軽快な演技がよかった。
 孤児になったマリ子を、新聞の尋ね人の広告で探す父親の必死さを花菱アチャコが好演。
 映画の随所に無声映画時代のコメディを髣髴とさせる味わいがあった。
 泣いて笑わせてと、人情喜劇の定番の場面が観られる。
 つぎからつぎと繰り出されるナンセンスな笑いが印象的である。