柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺


 11月下旬に小春日和の日々があったが、12月の師走に入って北風ようやく強くなる。
 昨夜来の雨が上がった。柿の植えられた広い畑があり、見事な柿にはっとして立ち止まった。
 大きな果実が色付いて枝に鈴なりであるのだ。
 この時期でも柿はまだ収穫されないで枝に垂れ下がっている。
 近くで眺めると、昨夜の雨の滴(しずく)が実に残っていた。
 愛宕柿だろうか。
 

カキノキ科の落葉高木。また、その実。山地に自生するが、古くから栽培される。よく分枝し、葉は短楕円形で先がとがり、光沢がある。秋に紅葉する。初夏に白い雌花と雄花とが咲き、秋に黄赤色の実を結ぶ。実には萼(がく)が残ってつく。品種も多く、甘柿には富有・次郎・御所など、渋柿には平核無(ひらたねなし)・西条などがあり、実を生または干して食べる。材は家具などに用いる。  『大辞泉

 『大辞泉』の引用句が、正岡子規の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」であった。
 子規の句に、柿を詠んだ句はどんな句があるだろうか。
 高浜虚子選の『子規句集』で調べてみた。気に入った句を並べてみよう。

 柿落ちて犬吼ゆる奈良の横町かな
 村一つ渋柿勝に見ゆるかな
 柿ばかり並べし須磨の小店かな
 
 温泉の町を取り巻く柿の小山かな*1 
 つり鐘の帯のところが渋かりき *2 
 柿熟す愚庵に猿も弟子もなし
 梢渋き仏の柿をもらひけり
 御仏に供へあまりの柿十五
*3 
 『子規句集』に収録されている「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の句にある前書きは、「法隆寺茶店に憩ひて」である。

*1:前書きに、「道後」

*2:前書きに、「つりかねといふ柿をもらひて」

*3:前書きに、「愚庵より柿をおくられて」とある。