天の川京しもた屋の大銀杏

 
 公園の池に寄ると、水面が静かだ。周辺は蛙の鳴き声は聞こえない。
 水辺の生き物は一匹も見られなかった。ただ小さな蛙を一匹見つけた。あまり大きくはないのだが、背中の模様からトノサマガエルのようだ。
 19日の夜から20日の朝にかけて、今まで経験したことのないような雷雨があった。
 そのような気象の激変など何も知らないよ、という風情で静かに蛙は睡蓮の葉に座っていた。
 「荘子」に坐忘という言葉があるけれど、居ながらにして一切を忘れ去っているかのごときトノサマガエルである。

 中村草田男句集「来し方行方」を読む。
 昭和十七年、「秋の旅など」に、つぎのような前書きがある。(一部旧字を新字にて記述。)
 
  (京都に於ける文部省主催「藝術学会」に出席、旧友伊丹万作の家に宿りたる頃)


 秋落日妻子かげなき真赤な顔
 秋行や家に護りの妻あれば
 簪も櫛もなき髪笑む柘榴
 天の川京しもた屋の大銀杏