映画『朗かに歩め』とモダンガール

 1月から始まった小津安二郎監督特集の一本、映画『朗かに歩め』(1930年、松竹蒲田、96分、白黒、無声)を観る。
 出演は高田稔、川崎弘子、吉谷久雄、伊達里子、坂本武。美術・水谷浩。

 “ナイフの謙”と呼ばれるやくざな青年・謙二は、タイピストのやす江に心を惹かれ、彼女のために悪の仲間から抜け出そうとするが・・・。人物や服装や立居振る舞い、室内の様子など、小津安二郎監督のアメリカ映画好みを示す一篇。フィルム提供/松竹 (特集パンフレットより) 

 冒頭、汽船が煙を上げて停泊している横浜港、ずらりと並んだ外車の列から紳士から盗んだ財布を持った謙二の子分(吉谷久雄)が追いかけられて逃走する移動撮影で始まる。
 そのカメラワークが後年の小津とはまったく違っていて素晴らしく斬新な印象を与える。
 
 悪の道に進んでいた青年の謙二(高田稔)が、街ですれ違った和服のタイピストのやす江(川崎弘子)に一目ぼれし、悪の道から更正しようとする物語なのだが、そうはさせまいと不良モダンガールの千恵子(伊達里子)が絡(から)む。
 伊達里子の断髪スタイルで、髪の先端が巻き上がっている!
 
 やす江に接近する謙二は悪の道から離れるために、千恵子からも逃れようとする。
 子分の仙公(吉谷久雄)は会社の運転手に転職し、謙二もビルの窓拭きに職を得るのだったが・・・。
 アパートの壁に貼っているボクシングスタイルの女性のポスター、まるでアメリカ映画の一場面かと思える。美術を水谷浩が担当している。
 タイプライター、車でのドライブ、蓄音機、ゴルフやボクシングの練習風景といった最新の風俗とファッションを見ることができる。
 先日、毎日新聞の今週の本棚に渡辺保氏が山口昌男の新刊の『エノケンと菊谷栄』の書評を書いていました。

 《これはまさに昭和前期の東京の文化のアルケオロジーであり、山口昌男の民俗を解析する方法のもっとも成功した著作の一つである。》
 と、渡辺氏にならって言えば、小津の映画『朗かに歩め』は昭和前期、昭和モダニズムの文化のアルケオロジー(考古学)として見ることができるのではないかと思いました。