淀川の河明りより蚊喰い虫

 公園の桜は満開から散りはじめている。
 まだ夜桜の花見客が樹下に座って興じていた。


 「淀川の河明りより蚊喰い虫
 「夜桜の道を教へて行かせつつ
 「構内の一角夜業おそ桜


 中村汀女の俳句で、昭和十六年(1941年)の句である。
 「局構内の八重桜満開 三句」の前書きがある。

 この頃、汀女は造幣局官舎に在(あ)った。
 蚊食い虫とは、蝙蝠(こうもり)ですね。
 淀川の河明りで桜を見物していた時に、八重桜から突然に黒い蝙蝠が飛んで来たことよ。