『人生散歩論』のこと

 街路樹のナツメに花が咲いていた。大きさは六ミリほどで黄緑色である。

 新刊で池内紀著『亡き人へのレクイエム』を読み終える。

 雑誌で以前読んだ追悼文も収録されていた。
 西江雅之さんへの追悼文は、雑誌「ユリイカ」で読んだものだった。
 巻末にブックリストがあり、本文中で言及された本の他に全集・著作集なども記されている。
 この本を読んで、関心を持たれた読者への参考になるかもしれない。
 著者の回想で、種村季弘さんへの印象的なエピソードを一部引用。

 私が知ったのは四十代以後の種村さんだが、いつもはじけるように若々しく、それは二十代の青年の感性というものだった。話を聞いているだけで「こゝろ明るくするもの」があり、おりおり「こゝろ刺すもの」がまじっていた。場末の裏通りを好んだ人だが、その空間はひろびろしていて、天地に大きくひらいていた。
 ある雑誌の対談でお会いしたのが最後になった。小田原のソバ屋の二階で会った。アンソロジーをめぐるもので、おしまいに種村さんは話している。
 「ぼくはそのうち『人生散歩論』という本を書こうと思っています。」
 人生というのは散歩であって、本道を歩いてもいいけど、疲れたら横丁のおでん屋でちょっと飲んで、パチンコ屋にしけこんで、それから向かいの大衆酒場に入って、もどりたければ本道にもどればいい。「気の向くまま、足の向くまま」、これがアンソロジーの編み方、読み方の極意なり。  10ページ

亡き人へのレクイエム

亡き人へのレクイエム