八日は二十四節気のひとつ、立秋だった。早朝の四時半ごろ東北東の空に月が昇っていた。
今日もうだるような暑さである。通りに植えられた夾竹桃が今を盛りに咲いていて、赤や白の花を付けているのが見られる。蕪村の句に、
ゆうがほに秋風そよぐみそぎ川
「鴨河のほとりなる田中といへる里にて」と前書あり。多田道太郎の『新選俳句歳時記』(潮出版社)によると、田中といへる里は、今の下鴨、下鴨神社あたり。
それは、さて置いて、四方田犬彦の『摩滅の賦』(筑摩書房)を読む。
摩滅についての書物である。
後書きにあるように、「本書はこれまでのわたしの書物のなかで、もっとも分類不可能なものであるということができる。」
「だが世間ではときに、夢野久作の『鼻の研究』とか、稲垣足穂の『少年愛の美学』といった風に、どの範疇にも属さない、摩訶不思議な書物というものが執筆されたりするものである。摩滅と美少年のどちらが世間に多いかといえば、いうまでもなく摩滅であろう。であるならば、後者については足穂翁の大著があるというのに、これまで摩滅について書物が書かれていなかったことの方が、奇妙ではないだろうか。誰も書こうとしなかったから書いてみた。本書の意図はそれに尽きる。」(190ページ)