結城昌治の句集と火星と月

蘭陵王

 夕方うす曇り、月と火星が見えなかった。火星が地球に大接近していることだし、晴れた日には月と火星をじっくり眺めてみよう。
 先日、古本屋で結城昌治の『死もまた愉し』2001年(講談社文庫)を見つけた。「定本 歳月」と「余色」という二つの句集が、「死もまた愉し」という語り下ろされた自伝の後にある。そのなかで、秋の季節に詠んだ俳句でいくつかいいなと思った句。

 秋の夜のどこまでついてくる犬ぞ
 秋の蚊の打たれやすくて打たれけり
 鰯雲つくねんと仰ぎゐたりけり
   「定本 歳月」より
 
 振り向けば犬も振り向き秋の風
 秋の蚊に刺されしという耳に触る
 芋腹となりて眠たきわびしさよ
 いわし雲どこへゆくにも手ぶらにて
 旅をゆくかに初秋のちぎれ雲
 秋の蚊を落とせし跡や両の手に
 それぞれに風をたのしむへちまかな
   「余色」より

 結城昌治のこの文庫の解説は常盤新平が書いている。この解説を読むだけでももうけものかな。
 『志ん生一代』で結城昌治古今亭志ん生の評伝を書いていて、講談師をやっていたこともある若い頃の志ん生をよくたどっている。志ん生の芸の秘密(?)は、この講談と取り組んでいた時期の志ん生にあるのではないだろうか。